630: ◆A0cfz0tVgA[saga]
2016/05/23(月) 01:14:50.29 ID:+1M4Crvn0
予兆はなかった。もしあったというのなら、誰かしらが気づいていたはずだ。
単調な流れの中にいる者にとって、『変化』はどうしようもない『違和感』として感じてしまうもの。
故に『それ』は前触れ無く突然に降りかかり、当たり前であるはずの日常を霞のように吹き散らした。
始まりは、実に些細なものだった。
村人の一人が、山菜を採りに山に登ったまま、夕方になっても降りてこない。
心配した身内の人々は彼を捜しに山に入り、他の村人も無事を願って待ち続けた。
結果として、空が紅く染まり始めた頃に彼は漸く見つかった。
山の中腹辺り、そこに生えていた杉の木の下にもたれ掛かっていたのだ。
歩き回って疲れたのか、口も利けないほど弱っているようだったので、
身内の一人が彼を担いで、やっとのこと何とか下山することができたそうだ。
人々は彼の無事を心から喜んだ。
例え身内ではなかったとしても、この小さな集落に於いては掛け替えのない家族だったから。
――――その喜びが、直ぐに絶望に歪むとも知らずに。
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