新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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941: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:31:52.24 ID:TPJ777ywO


平沢「持っていけ。おれにはもう必要ない」


平沢は沈黙の間を作らないように真鍋から返された拳銃を取り出し、永井に渡した。真鍋の拳銃は黒服や永井たちが統一して使用しているシグザウエル P220ではなくベレッタ M92Fで、銃器に詳しくない永井は見た目ではなく手に持った瞬間に感じた重さで支給された装備とは別の種類の拳銃だと気づいた。重さの違いに気づくと手に持った感触も別のものに感じられた。見た目の違いもあったし永井もそれには気づいたが、やはり重さと感触の違いのほうがはっきりしていてリアリティがあった。そのベレッタにはひとつの物語があった。拳銃には特定の人物の生きられた時間があり、この黒い物質とともにその時間まで移譲されたかのようだった。

永井が手渡されたその時間的な重さにかすかに戸惑っていると(というのも無意識の領域で感じ取っていた時間の重さは永井がこれまで背を向けてきた歴史性に他ならないからだった)、かん、かん、かんという等間隔の歩幅から繰り出される足音が屋上へ続く階段から響いてきた。
佐藤が姿を現した。


佐藤「もう逃げるのかい? 永井君」


佐藤は問いかけを投げたのにもかかわらず永井の返事を聞く事なく草刈機を作動させ、耳障りな高めの回転音を響かせ示威を見せつけるかのようにその場に立っていた。


平沢「逃げろ、永井」


佐藤を見据えながら、平沢が落ち着いた声で永井に語りかけた。


平沢「このビルからだけじゃない。この戦いすべてからだ」


佐藤が身体を前に傾け一気に駆け出した。それでも永井はその場から動かずにいた。その気配を察知した平沢は固定していた視線を永井に向け、あらためて諭すような声で言った。


平沢「おまえが戦わなきゃならない義理はない」


その言葉を受け、まず反応を示したのは眼だった。最初に見開かれて、まるい眼球を覆う粘膜が風に晒された。永井は眼を細めたがそれは風のせいではなく、内側からせり上がってくる痛みにもよく似た熱のせいだった。

永井は平沢と同じ方へ向き直り、決然として言った。



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