944: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:36:59.20 ID:TPJ777ywO
永井「クソッ、クソッ……」
永井はビルの窓の出っ張りにたった三本の指を引っ掛けて奇跡的にしがみついていた。指に力を込めると爪が出っ張りの部分を引っ掻き、食い込で痛んだ。永井の筋力で片腕で自身の体重を持ち上げることはかなわず、爪が剥がされるときのような痛みの数歩手前の予感を指先から感じながら、一分もしないうちに落下するであろうこの状況を呪うことしかできないでいた。
永井「クソッ!!」
自棄になった永井がIBMを放出する。頭部と右腕がまず形成され、舞い上がる粒子が上半身と下肢を連結させているあいだ、永井のIBMははじめに作られた右腕で横の出っ張りを掴み、頭を少し突き出した格好で永井を見下ろしていた。
全身が出来上がってもIBMは同じ姿勢を取り続けて動こうとはしなかった。きわめて乱暴な自我を持ち凶暴な振る舞いしかしてこなかった永井のIBMがこのときばかりは、その場に永井しかいないためか命令を待ち受ける飼い犬のようにおとなしくしていた。
永井はIBMを見上げた。息切れが激しい。苛立ちが募り、誰かを憎んだときのようなうめき声が喉からこぼれた。
永井「役立たずが」
IBM(永井) 『?』
永井から敵意に等しい罵倒を浴びせられてもIBMは意味を理解できず、小首を傾げる仕草を見せるだけだった。突然、それまでより一層強い横風がビル街を吹き抜け、か細い指先で体重を支えていた永井のを吹き飛ばし、暗闇にさらっていった。
永井を見送ったあともIBMはその場にとどまり、首をめぐらしあたりを見回した。真上を向き、しばらくのあいだ空を見上げていた。IBMはふいにかつて永井が中野にため息混じりにこぼした言葉を意味ありげにつぶやいた。
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