新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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946: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:40:24.10 ID:TPJ777ywO


佐藤「最終ウェーブでまた会おう、永井君」


佐藤は屋上から跳びだし、その身を暗闇へと投げ出した。そのすぐ背後でIBMの腕がむなしく振り抜けいていった。は、は、は、と佐藤の笑い声が切れ切れに聞こえ、やがて消えていった。

ひとり取り残されたIBMは意味もなく佐藤が飛び降りたところを眺めていたが、ふとした拍子に振り向き平沢を見やった。もうしばらく前からそうだったしわかっていたことなのだが、平沢は死体になっていた。


死とは、おまえが世界にされるがままの存在になること。


フランツ・カフカ式の文章がはたして自我を持っているとはいえIBMの思考から生じたかどうかは不明だが、死体となった平沢の肉体は世界に起きるあらゆる現象や法則に無防備に支配される状態になっており、すくなくともそのことはIBMも理解していたようだった。

いつのまにか視点がクレーンを用いたカメラのごとく上昇し、ビルの屋上の周囲が開け、明かりの灯る街を一望できるほど高くなっていた。平沢の姿は小さな点になったかと思うと、すぐに見えなくなってしまった。

頭部の崩壊がはじまり、上昇する黒い粒子のひと粒ひと粒が視覚を獲得したかのような風景の拡がりは実際にIBMが知覚するところのものだったのか、リンクのない永井には不明だし、IBMはすでに消え去ってしまっていた。

風がごうと唸って乱れ行く。最後の粒子の漂いが空気の流動によってさらわれてゆく。

ビルの屋上で動くものはもう誰もいなかった。


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