16:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/15(土) 20:20:08.50 ID:+jykf0ly0
「アタシー、こーゆーのほっとけない系なんっすわー」
そう言ってテキパキと散らばるゴミを拾い集めた。
驚きで一瞬身を硬くしてから、後を追うように手伝った。
ふと、いつ頃からだったかな、と思った。善行を積むことに躊躇するようになったのは。
子供の頃は、何を思うことなく『良いこと』をできていたはず。なのに、いつからか周りの目が気になるようになった。それをすることが気恥ずかしくなって、今ではもう『良いこと』をする機会にすら気づかないほどに何も感じなくなっていたらしい。
暖かい店内に入ると、バックヤードから店長らしき眼鏡の中年男性が早足に近づいてきた。
「あの、すみません、ゴミ拾いなんてさせてしまって! ありがとうございました!」
「いーよいーぽよ☆ アタシらが勝手にやったんだしー。ねー親方?」
頷いた。
なんとなく照れ臭くて、少し居づらかった。しかしそれは嫌な気分がゆえではなかった。
その日は百二十円のコーヒー二本を二百円で売ってもらった。恐縮して礼を言うと、向こうは更に恐縮して礼の言葉を並べた。
店の軒先で缶を啜りながら、お人好しだな、と茶化すように彼女に言った。
「親方もぢゃん! 人のこと言えなくね?」
彼女がいなければ、絶対にゴミ拾いなんて自発的にはしなかった。だから自分はそうではないな。
誰もが心根ではしたいと思っていて、けれど二の足を踏みがちな行動。彼女はそこに躊躇いを持たない人だった。
本当に、見た目と口調以外は優等生のようだ。
どうかこのままスレることなく、なんて父親のようなことを思う。彼女のような大きい娘がいる歳ではないのに。
そこまで考えて、そういえばしかし、それが到底あり得ないほどの年齢差ではないのだということに気づき、少しヘコんだ。
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