20: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:09:14.78 ID:bbgcA4Fi0
「桃子、は……」
「桃子、あなたの気持ちは想像することしかできませんけど……これだけは胸に留めておいて。コロちゃんがこのアートを捨てようとした理由は、決して桃子にはないですわ」
「…………気休めは、よしてよ。そういうの……」
「気休めではありませんわ」
「確かに桃子は、コロちゃんにひどいことを言ったかもしれませんわ。でも、このアートが完成していたら、コロちゃんの気持ちだってはっきりと伝わって、わだかまりを溶かしてくれたとわたくしは思います。……そういう可能性を奪ったのは、わたくしですわ」
「…………」
「二階堂千鶴ともあろうものが、女の子ひとりの気持ちを汲んであげられず、大切なものを自分から捨てさせるなんて……。本当に、セレブらしからぬ振る舞いでしたわね」
千鶴は自嘲するように、懺悔するように、あるいは桃子に向けられているかもわからない言葉を吐き出していた。だからこそ、下手な慰めよりもずっと、桃子の心を楽にした。
「ありがとう、桃子。吐き出すだけでも楽になるものですわね。そして、ごめんなさい」
「謝らなくて、いい。桃子が聞きだして、千鶴さんが答えただけでしょ」
感謝だって、桃子がしてもらうような筋合いはないと思うけど、それでも否定はしなかった。桃子は暗黙の中で連帯感のようなものが生まれるのを感じた。
話せないな、と思う。ロコにアートを作ってほしいと願ってしまった。不合理な考えだってわかってるし、自分にそんなことを言う資格なんてないことも、十分に理解している。だって、桃子は否定してしまった側の人間だから。
でも、嬉しかったんだ。この気持ちは嘘じゃない。嘘にしたくない。
この話がロコに伝われば、自然と話の焦点はアートの処遇に向かうだろう。そうなってしまった時のロコの答えを、桃子は聞きたくなかった。もういらない、って。そう言われてしまうのが怖かった。
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