9: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/07/23(月) 07:36:01.54 ID:+QmI8LWq0
 アイドルにも、美人にも見慣れているであろう社員達が、皆まゆの方を見る。 
  
 心の底から人生を謳歌しているものは、それがたとえどのような手段であれ、周囲を惹きつける。 
  
 まゆは世界に微笑み返す。 
10: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/07/23(月) 07:40:14.20 ID:+QmI8LWq0
 「だきしめても、いいですかぁ」 
  
 その言葉を言い終えるまえに、まゆは相手を抱き締めていた。 
 罪の香りがする。鼻先を、薄灰色のジャケットに押し付ける。 
 鼻梁がひくひくと震える。鼓動がおちつく。なにも聞こえない。 
11: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/07/23(月) 07:40:43.86 ID:+QmI8LWq0
 今日はオフだった。だが、まゆはプロダクションにやってきた。 
 ただ愛のためにだけ。 
  
 ふたりで、リフレッシュルームに入る。 
 ほかのアイドル達は、まぶしそうな目でまゆを見る。 
12: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/07/23(月) 07:41:31.85 ID:+QmI8LWq0
 「Pちゃま」 
 「おはようごぜーますでごぜーますよ!」 
 「プロデューサーはん…?」 
  
 少女たちがプロデューサーに挨拶をする。 
13: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/07/23(月) 07:42:22.34 ID:+QmI8LWq0
 そういう男が自分を、佐久間まゆをプロデュースしている。 
 少女としての優越感、女としての自尊心、アイドルとしての期待感、佐久間まゆとしての充足感。まゆのプロデューサーは、それらをいっぺんに満たしてくれる。 
  
 だったら、こたえなきゃ。そそがなきゃ、いっぱい。 
 今度は失敗しない。今度は、しくじらない。これは運命なのだから。 
14: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/07/23(月) 07:42:49.21 ID:+QmI8LWq0
 ・・ 
  
 レッスンルームで、19歳のトレーナーは自分より3歳ほど下の、アイドルを見ていた。 
 お互いに新人。はじめは親近感が湧いた。 
  
15: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/07/23(月) 07:46:12.52 ID:+QmI8LWq0
 スカウト組としては非常に珍しいタイプ。 
 通常、スカウト組にはよく言えば精神的余裕、悪く言えば甘さがある。 
  
 “自分はプロダクションからお願いされてアイドルになっている”。 
 その自負は多かれ少なかれ、少女達の向上心を鈍らせる。 
16: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/07/23(月) 07:46:53.95 ID:+QmI8LWq0
 恋、かぁ。 
  
 トレーナーは嘆息した。 
 彼は、様々な女性達から思いを寄せられている。あるひとりを除いたアイドル、事務員、役員……トレーナー達からも。 
 彼自身はそれに驕ることはない。むしろ、自分に向けられる好意を巧妙に利用している。 
17: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/07/23(月) 07:47:59.58 ID:+QmI8LWq0
  
 「どうです、かぁ?」 
  
 まゆは一旦ステップを止めて、トレーナーに尋ねた。 
 肩で息をして、汗がおでこから目元、あごから首筋につぅと流れていく。 
18: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/07/23(月) 07:48:32.54 ID:+QmI8LWq0
  
 「身体をこわしちゃうと、プロデューサーさんが悲しみますよ」 
  
 「プロデューサーさんが……」 
  
19: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/07/23(月) 07:49:17.40 ID:+QmI8LWq0
 ・・・ 
  
 モデル時代の貯金もあり、佐久間まゆのデビューは成功を収めた。 
 甘い容姿と声で男子のファンが付き、女子のファンは過去の雑誌購買層から。 
  
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