P「俺が残してやれたもの」
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22:名無しNIPPER
2018/07/24(火) 20:02:04.55 ID:D6YqytWR0
「……あっ」

「プロデューサーさん? どうしたんですか、こんなもの、押そうとして」

 気が付いたら手を伸ばしていた、ナースコールが少し届かない位置に置かれる。
 少なくとも、まゆのように正気を失っているようには思えなかった。

「全く……見られながらは嫌ですよ?」

「何が、むぐっ」

 問いただそうとすると、リンゴを口に押し込められた。
 吐き出そうとしたが、笑顔でこちらを見てくる幸子の無言の圧力に勝てなかった。

 飲み込む前に、リンゴをフォークで無理矢理口の中に全部押し込まれ、その時に唇が切れた。

「あっ……」

 リンゴの甘酸っぱさと、血の嫌な味が口内に広がる。
 口の中を何とか空にして、幸子を問い詰めようとした。

「おい、どういうつも――」

 チュ

「プロデューサーさんの血の味、ボクのと、変わらないですね」

「は、えっ?」

 切れた唇の部分を、舐めるようにキスをされた。
 触れている時間は、短かったが、確かにキスだった。

「お、おまっ、アイドルとプロデューサーだぞ!?」

 反射的に放った言葉が悪手だと、直ぐに悟れた。

「……まゆさんとはしてたのに、ですか?」

 思わず、体が強張る。
 何故知っているのか、問い詰める前に、幸子は口元に弧を描くように笑った。

「大丈夫ですよ。もう、まゆさんは居ませんから」

「はっ?」

「安心してください。プロデューサーさんを脅して、無理矢理していたまゆさんは、このボクが説教しましたから」

 その笑顔は、カワイイとは程遠く、邪悪な笑みと言うのがふさわしかった。
 そして、説教という言葉が引っかかった。

「……幸子、説教って、どういうことだ?」

「……」

「おい、待て……そういえば、あの日、何で事務所に来れた?」

 そう口に出した瞬間、何かに急かされるように、思考が口に出る。

「忘れ物をしたからって、幸子の親は許すか? いや、許さない、絶対に」

「……」

「それに、日を跨ぐ前に来たとも言ってたよな? 何で、椅子の倒れる音を聞いてないんだ?」

 封じ込めていた記憶が、事件後に幸子が語った内容と矛盾点を浮き上がらせる。

「まゆが、何もしなかったのは、何故だ? ちひろさんが言うには、まゆは実家に帰って呆然自失状態らし……い?」

 ガチッという音で、俺の思考は止められた。
 音の正体は直ぐに分かった。

 両手と、両足、そこに金具が付けられて、ベットに固定されているようだった。
 そして、両手足の、感覚が、無い。

「はっ……?」

「ふふーん、ボクの作業の速さ、驚きました? ちひろさんのせいで薬物に耐性があるとは思ってましたけど、志希さんの方が一枚上手でしたね」

「いや、まてっ! 両手足の感覚も無いんだが!?」

「ああー……だから暴れなかったんですね。志希さん凄いですね……」

「か、感心してないで、助けてくれ!」



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