17: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/08/01(水) 00:59:23.48 ID:Ai+XpKnp0
夜の銀座駅には浮かれる若者はおらず、静かに賑わっていた。
早苗は、肩パッドで上半身がやたら大きく見える、赤いトレンチコートを羽織っていた。
中は白いセーターで、下は膝までの長さのスカート。
首には金のネックレスを巻いていた。
「早苗さん、それ…」
「可愛いでしょ」
「うーん……その、ユニークだわ」
瑞樹は努力して、褒め言葉を見つけた。
瑞樹の方は、清潔感のあるホワイトシャツに、灰色のチェスターコートを合わせている。
ボトムスは脚がすらりと長く見える、黒のジーンズ。
早苗と比べればおとなしいコーディネートだった。
もっとも、今の早苗と比べれば大半の女性はおとなしく見える。
「予約はもうとってあるの。
味はまあまあだけど、信頼できるお店よ」
「もうお腹ペコペコ。
大人になれない悪ガキどものせいで、今日も世直しが捗ったわ」
「番組のこと?」
「そう。今日は亜季ちゃん…アイドルの、と拓海ちゃん、この子もアイドルなんだけど、その2人もいたから心強かったわ〜。
そこらのガキンチョがまるで子猫ね」
「猫なら可愛いじゃない」
「そうね……何をしたっていいって、そんなカンジ。ちょっと羨ましかったわ」
早苗がしんみりとした声を出す。
彼女の年齢について悩むことがあるのか、と瑞樹はひとりで安心した。
店は完全個室の居酒屋で、人目はない。店員の口も堅い。
料理の腕よりも、そういった点で評価されている店だった。
「それで、早苗ちゃんになにを相談したいの?」
早苗は座った途端にそう切り出した。
口調はいつものようにやわらかく、深刻ではなかった。
「親」
「なるほど」
瑞樹が一単語を発しただけで、早苗は相手の状況を把握した。
珍しい話ではないからだ。同じような質問を、他のアイドルからもされている。
「嫁入り前のおなごが〜ゴニョゴニョ〜ってところでしょ」
「理解がはやくて助かるわ」
瑞樹は込み入った事情を説明せずに済んだことに安堵した。
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