川島瑞樹「ミュージック・アワー」
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20: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/08/01(水) 01:01:34.73 ID:Ai+XpKnp0
「それで、トレーナーさんから見て私はどれくらいになったの?」

ダンスの基本的な動きは全部覚えた。
ボーカルも、アナウンサー時代の貯金があり、思ったほどの苦労はしなかった。

だが、トレーナーの返答は冷淡だった。

「50ってところですね」

「パーセント?」

「点です」

「何点満点?」

「200です」

瑞樹は、はぁー……と息をついた。やはり、アイドルは甘くない。

「内容は?」

「表現力不足です。
 率直に言って、川島さんのパフォーマンスは心に迫るものがありません」

小手先の技術はモノにしたが、舞踏会への道のりは遠い。
そう、踊りがうまいだけならダンサー。歌が上手いだけなら、シンガーでいい。

何かが足りないのだ。一言では説明できない、何かが。

「CDデビューまで、あとどれくらいかしら?」

「1ヶ月ですね。そっちは問題ないと思いますよ」

「あら、思ってもないことを」

「最悪編集でごまかせますから」

瑞樹は苦笑した。346プロダクションに来てから、苦笑の連続だ。
ここの人間は手加減を知らない。

だが決して、悪い気分ではなかった。

「問題はCDデビュー後のミニライブです。
 大体のアイドルがここで失敗します」

「早苗さんも?」

「ええ、早苗さんも」

瑞樹は息を飲んだ。
できることなら失敗はしたくない。
28歳になって忍耐強くはなったが、保守的にもなっている。
失敗を過剰に恐れている。

「レッスンでなんとかなるかしら」

「なんとも言えませんね……。
 
 レッスンでガラスの靴は履けるようになりますけど、
 その後割れずに済むかどうかは、本人と現場の空気次第なので」

「割れたら?」

「しばらく残りますね。結構痛いですよ」

いーっ、と瑞樹は口を横に開いた。



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