1: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:20:35.90 ID:rmJoFnhWo
 
 ・アイドルマスターシャイニーカラーズ、芹沢あさひがメインのSSです。 
  
 
SSWiki : ss.vip2ch.com
2: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:23:03.90 ID:rmJoFnhWo
  
  青空のことを思い浮かべたとき、私が次いで連想するものといえば大量の水だった。 
  春先の桜降る並木道を歩くときも、真夏の蒸し暑い交差点に立ち止まるときも、秋晴れの澄んだ路地裏へ迷い込むときも、ちょうどいまみたいに、初冬らしい冷気に満ちた公園のベンチに腰掛けているときも、それは何も変わらない。 
  いつ如何なる時であろうと、私の中で青空といえば、その直後に続くものは水だ。 
  しかし、改めて考えてみると、それはとても不思議なことのように思える。 
3: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:23:50.48 ID:rmJoFnhWo
  
  思いもよらない質問に頭を悩ませる私の横で、彼女は先ほど自動販売機で買ったばかりのミネラルウォーターを掲げてみせた。 
  
 「そもそもの前提として、一般に水と称される液体はおおよそ無色だ。それはいい?」 
 「勿論っす」 
4: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:24:48.13 ID:rmJoFnhWo
  
  私はゆっくりと目を閉じて、それから想像する。 
  ここではないどこか遠くにあるものについて思いを巡らせようというとき、視界から飛び込んでくる一切の情報なんてただのノイズだ。 
  だから、遮断する。それが私にとって、物事と向き合うときにおけるある種の作法だった。 
  
5: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:25:21.58 ID:rmJoFnhWo
  
  最初にみえたのは羊毛みたいに白く柔らかな光の群れだった。 
  それはあくまで想像上の産物でしかない。だけど、やがて訪れる春のような、薄く滲んだ温度を遠くのほうに感じ取ったような気がした。 
  きっと外を照らす太陽のせいだろう。真っ白な明かりが瞼の隙間から溶け込んでいた。 
  
6: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:26:21.18 ID:rmJoFnhWo
  
  それから、考える。ここはどこだろう?  
  足元には黒のアスファルト。それから、いつの間にか引かれていた、なにやら意味ありげな白線模様。どうやら、これが私にとって最も自然な状態らしかった。 
  そうして綺麗に対比する二つの並びには、やはりというか、はっきりとした見覚えがある。 
  これは多分、交差点だ。 
7: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:27:09.97 ID:rmJoFnhWo
  
 「空」 
  
  その水色は、つまり青空だ。 
  
8: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:27:55.35 ID:rmJoFnhWo
  
 「青空っすよ、やっぱり」 
 「なるほど。そこでループになっているわけだ」 
  
  プロデューサーさんが頷きながら言う。 
9: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:28:39.56 ID:rmJoFnhWo
  
  プロデューサーさんがいったい何を探していたのか、私には分からなかった。 
  だけど、どうやら彼女は何かを見つけたようで、ふっと手元に視線を落とす。 
  
 「でも、意味なんて必要ないね。もう少し考えてみようか」 
10: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:29:14.11 ID:rmJoFnhWo
  
  彼女と私は、時々こういった話をする。 
  たとえばいまみたいに、予定と予定との間に生まれたどうしようもない空白の時間なんかを使って、具体性なんてどこにもないような話をする。 
  そして、それは大抵の場合、私のほうから何かを切り出して、彼女がそれに様々な補足を加えていく、という風に展開していく。 
  今日も例に漏れずそうだった。 
11: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:29:54.24 ID:rmJoFnhWo
  
  私が話している間、プロデューサーさんは相槌も打たないで、ただひたすらに沈黙していた。 
  きゅっと結んだ唇に添えられた人差し指が、時々微かに動いていた。 
  彼女の様子は、ともすれば話を聞き流しているだけのようにもみえるだろう。 
  だけど、彼女がなにか思考を巡らせるとき、その小さな右手が顎の辺りへ触れることを私は知っていた。 
12: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:30:36.85 ID:rmJoFnhWo
  
  プロデューサーさんは続ける。 
  
 「しかし、いまの場合はそれほどうまく繋げられないかもしれないな。何せ、これは連想ゲームだ。鶏と卵みたいに分かりやすい関係性があるわけじゃない」 
 「そうっすね。水色と青空となら、水色のほうが卵っぽいっすけど」 
13: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:31:13.85 ID:rmJoFnhWo
  
 「それは、青空っす」 
  
  私は答えた。 
  
14: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:31:42.35 ID:rmJoFnhWo
  
  水色は、青空の色だ。 
  私が青空のことを思い浮かべるときに水を連想する理由は、だから先ほどの結論から考えるのなら、青空の色を無意識のうちに水へ投影しているからということになるのだろう。 
  本来の水は透明色だけれど、私の中でそれは空の色としてインプットされている。 
  どうしてだろうか? 
15: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:32:11.07 ID:rmJoFnhWo
  
 「あっ」 
  
  思わず声が洩れる。 
  
16: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:32:41.60 ID:rmJoFnhWo
  
 「へえ。もう見つけられたんだ」 
 「本当に何となくっすけど」 
 「たとえ不確かでも、あさひが見つけたのならきっとそれが正解だろうと思うよ」 
 「正解、なんすかね。たしかに、もうこれしかない、って気はするっすけど」 
17: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:33:18.57 ID:rmJoFnhWo
  
 「何って、何が?」 
 「わたしの中で青空と水とを結んでいたものの正体っすよ」 
  
  まるで息を止めたような沈黙の後で、彼女は言った。 
18: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:33:55.17 ID:rmJoFnhWo
  
 「海」 
  
  降り始めたばかりの雨みたいに静かな声だった。 
  
19: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:34:27.93 ID:rmJoFnhWo
  
 「そうっすね」 
  
  私は頷いた。 
  決して同じ空をみられなくたって、私たちは同じ空をみているのだと思えるのなら、それだけでも私は嬉しい。 
20: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:34:59.54 ID:rmJoFnhWo
  
 「しかし、そう考えると、あさひの言った水槽の喩えはなかなか面白いな」 
 「そうっすか?」 
 「空の青さに水を連想することはさして珍しくもないけれど、その場合、普通は私たちが水の側にいるんだよ」 
  
21: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:35:33.16 ID:rmJoFnhWo
  
 「もう行くんすか?」 
  
  私は尋ねる。 
  
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