11: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:29:54.24 ID:rmJoFnhWo
  
  私が話している間、プロデューサーさんは相槌も打たないで、ただひたすらに沈黙していた。 
  きゅっと結んだ唇に添えられた人差し指が、時々微かに動いていた。 
  彼女の様子は、ともすれば話を聞き流しているだけのようにもみえるだろう。 
  だけど、彼女がなにか思考を巡らせるとき、その小さな右手が顎の辺りへ触れることを私は知っていた。 
12: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:30:36.85 ID:rmJoFnhWo
  
  プロデューサーさんは続ける。 
  
 「しかし、いまの場合はそれほどうまく繋げられないかもしれないな。何せ、これは連想ゲームだ。鶏と卵みたいに分かりやすい関係性があるわけじゃない」 
 「そうっすね。水色と青空となら、水色のほうが卵っぽいっすけど」 
13: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:31:13.85 ID:rmJoFnhWo
  
 「それは、青空っす」 
  
  私は答えた。 
  
14: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:31:42.35 ID:rmJoFnhWo
  
  水色は、青空の色だ。 
  私が青空のことを思い浮かべるときに水を連想する理由は、だから先ほどの結論から考えるのなら、青空の色を無意識のうちに水へ投影しているからということになるのだろう。 
  本来の水は透明色だけれど、私の中でそれは空の色としてインプットされている。 
  どうしてだろうか? 
15: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:32:11.07 ID:rmJoFnhWo
  
 「あっ」 
  
  思わず声が洩れる。 
  
16: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:32:41.60 ID:rmJoFnhWo
  
 「へえ。もう見つけられたんだ」 
 「本当に何となくっすけど」 
 「たとえ不確かでも、あさひが見つけたのならきっとそれが正解だろうと思うよ」 
 「正解、なんすかね。たしかに、もうこれしかない、って気はするっすけど」 
17: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:33:18.57 ID:rmJoFnhWo
  
 「何って、何が?」 
 「わたしの中で青空と水とを結んでいたものの正体っすよ」 
  
  まるで息を止めたような沈黙の後で、彼女は言った。 
18: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:33:55.17 ID:rmJoFnhWo
  
 「海」 
  
  降り始めたばかりの雨みたいに静かな声だった。 
  
19: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:34:27.93 ID:rmJoFnhWo
  
 「そうっすね」 
  
  私は頷いた。 
  決して同じ空をみられなくたって、私たちは同じ空をみているのだと思えるのなら、それだけでも私は嬉しい。 
20: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:34:59.54 ID:rmJoFnhWo
  
 「しかし、そう考えると、あさひの言った水槽の喩えはなかなか面白いな」 
 「そうっすか?」 
 「空の青さに水を連想することはさして珍しくもないけれど、その場合、普通は私たちが水の側にいるんだよ」 
  
21: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:35:33.16 ID:rmJoFnhWo
  
 「もう行くんすか?」 
  
  私は尋ねる。 
  
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