【シャニマス SS】P「プロポーズの暴発」夏葉「賞味期限切れの夢」
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12: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:26:10.63 ID:oj63shz20
「理由は働きすぎだ。休日返上、残業は当たり前で……周囲には過労死まっしぐらに見えていたらしい。それで『どうせ死ぬなら好きな仕事で死になさい』って諭されて、天井社長に紹介された」

 その上司は俺がアイドルの世界に興味があることを知っていた。何かと目をかけてくれた人だった。

「それで社長に会って……その時に言われたのが、さっきの『結果主義に囚われやすいものだ』って言葉だ。他にも厳しい言葉や難解な言葉をかけられたよ」
「例えば?」

「『視野は広いくせに盲点が大きい』とか『心の器は大きいのに穴が空いている』とか。極めつけは『今のままじゃお前が幸せになるのは難しい』だったかな。散々な言われようだった」

 天井社長と会ったのは貸し切りのバーだった。はづきさんもいたはずだ。社長は初対面でいきなり俺をトランプゲームに誘った。そして、俺という人間を値踏みし、底にある思考回路を見切り、あっさりと下した。それからプロデューサーをやらないかと名刺を渡してきたのだった。

「そういう言葉をかけられても、アナタは天井社長を尊敬しているわよね」

「それだけ真剣に向き合ってくれた人だからな。納得いかないことや、理解できない言葉もあったけど……それでも社長が甘い言葉を吐くだけの第三者じゃないのは確かだった。そうだな、一番印象に残っているのは……」

 初めて会った時、幸せになるのは難しい、と言われて俺は食い下がった。それなら人は変われるのか、あなたの言う幸せとは変化することなのか、と若者染みた問いをぶつけた。それに老練の男はこう答えた。

「『変わるものもあれば、変わらないものもある。それでいい』かな。未だにわかるような、わからないような言葉だ」

「何だか禅問答みたいだわ」
「禅問答か。……ははっ、確かにそんな感じだ」

 カツを口に運ぶ。噛み締めると肉汁があふれる。出先での食事は濃い味付けのものが多いが、このカツ丼は上品な味付けだった。俺はよくよく味わって飲み込み、納得した。

 おそらく彼女の言う通りだ。俺は結果を求める人間だった。努力や過程など単なる手段としか思えず、自分を磨き、顧みることに興味が持てなかった。
 だから『ちゃんと』を求めたのだろう。自分の感性を判断基準にできないなら、せめて、自分の結果と過程の中に客観的な『ちゃんと』が欲しかったのだ。

 『ちゃんと』があれば、どんな激務にも苦を感じることはなかった。


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