【シャニマス SS】P「プロポーズの暴発」夏葉「賞味期限切れの夢」
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18: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:30:27.87 ID:oj63shz20
 その教会に着いたのは午後三時をまわった頃だった。
 結局、到着するまで夏葉は一言も発さなかった。一時間ほど車に揺られて、その途中の十五分ほどの間に強い通り雨もあったのだが、それでも彼女は沈黙を貫いていた。

「着いたぞ」

 俺がそう言うと、夏葉は我に返ったかのようにはっとした。短く礼を言って夏葉も車を降りる。駐車場には小さな水たまりができていた。

 真っ先に海が見えた。教会は海に面した高台の角地に建っていて、否応なしに洋上の景観が目に入ってくる。裏手から付設の庭園に回れば、記憶の通りカリヨンの鐘があった。立地も景色も変わっていない。ここもまた当時から変わっていない場所だった。

 礼拝堂に入ると、少ないながらも先客がいた。歩きまわりながら感想を言い合っている若いカップルが一組と、杖を立てかけて長椅子に座り込む老人の男性が一人。撮影も結婚式も行われていない。

「下調べが無駄にならなくてよかったな」

 夏葉に声をかける。この教会は式場として名が知られていて、平日の昼間には定期的に一般開放がなされていた。もちろんその開放日を調べて今日ここを訪ねたのだが、ホームページに書かれた「開放日は都合により告知なく変更される場合があります」という一文がただただ不穏だった。

 夏葉は無言で頷き返すと、教会の奥手にある窓に寄った。海と鐘が見える窓だ。そこで夏葉が振り返ると、俺は彼女のウェディングドレス姿を幻視した。

『――結婚しなくても、きっと幸せでいられるわ。今だって、すごく幸せだもの』

 当時の夏葉は穏やかな笑顔でそう言った。あの時、あの瞬間を、彼女は鮮やかに肯定してみせた。俺はそれに『……うん』と返すことしかできなかった。

 陽が差し込み、まばたきをすると、純白のドレスは立ち消えていた。夏葉が「ねえ、プロデューサー」と俺を呼んだ。

「『どうして結婚式で鐘を鳴らすか、知っているかしら』」



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