【シャニマス SS】P「プロポーズの暴発」夏葉「賞味期限切れの夢」
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20: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:31:59.10 ID:oj63shz20
「迷うのも、満たされないように感じるのも……結局のところ、夏葉が誰よりもアイドルだった自分を大切にしてきたってことじゃないか」
 俺は心からの言葉を口にした。

「夏葉はよくやったよ。今の苦しみも虚しさも、決して悪い物じゃない。むしろ成し遂げたからこそあるものだ」

 しかし、俺の言葉は空回りするおもちゃのようだった。夏葉の目から鈍い光が消えることはない。夏葉の成功を肯定することはできても、虚しさを生み出す根本のスキマを埋めることはできなかった。

 言葉に意味と説得力を与えるのは行動だ。だから、今必要なのは行動なのだ。何かをしてあげたかった。俺が二年前の夏葉の行動で救いを得たように、今の夏葉の痛みを軽くする何かをしたかった。

「俺、は……」
 だが思いつかない。言葉ならいくらでも重ねられる。それらに確かな輪郭を与える一つの最適な行動ひとつが出てこないのだ。俺は自分の無力さに深く辟易した。

 もし彼女がまだアイドルで、俺がプロデューサーとしての立場に甘んじられるのなら、きっと息を吸うように最適解を出すことができるのだ。
 ただ一言、『夏葉が答えを出すのを待ってるよ』と告げるだけでいい。今までのように夏葉を信じて待っていればいい。

 だけど、もうその手は使えない。この六月が終われば夏葉は事務所に来なくなる。夏葉に迎えの車を寄こすこともなくなる。
 俺は、夏葉を待つことができる場所を、永遠に失ってしまう。そうしたら――



「……あ、あのー」

 ふと背後から声が掛けられた。聞き覚えのない声だ。振り向くと、先ほどまで礼拝堂内を歩き回っていた若いカップルが立っていた。
 人気のある場所は気づかれにくい、と俺は大学内で口にした。対して礼拝堂内は、大学に比べればはるかに閑散としている。考えてみれば誰かに気づかれるのも道理だった。

「もしかして何ですけど、有栖川夏葉さんだったりします?」
 女性が訊いた。その目はらんらんと輝いていた。



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