【シャニマス SS】P「プロポーズの暴発」夏葉「賞味期限切れの夢」
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3: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:20:04.75 ID:oj63shz20

 俺は自分でわかるほどに目を丸くした。自身の口をついて出た言葉が信じられなかった。目をすぼめて、またたきを何度か繰り返す。対して、助手席に座っている夏葉はぴくりともしなかった。

 あべこべだ、と思った。婚約を切り出した側が狼狽していて、切り出された側が平然としている。盗み見た夏葉の横顔は、神妙な面持ちで車の進行方向を見つめているだけだった。

 もしかしたら聞こえなかったのかもしれない、と疑問が浮かぶ。今ならば発言をなかったことにできるのでは、と頭をよぎる。しかし首を軽く振って、その考えを打ち消した。夏葉に嘘をつきたくない。

「それも……いいかもしれないわね」

 しばらくしてから、呟くように夏葉が言った。ちょうど車が赤信号に引っかかった時だった。
 語調から否定的なニュアンスは感じ取れなかった。目元をよく見れば、わずかに緩んでいる。嫌がられてはいないようだった。だが、反応に乏しいというのはやはり不安になる。

「ひとつ確認していいか」
「ええ」
「その……結婚してもいいかもしれない、って言ってくれたよな。それはつまり、夏葉は俺のことを好いてくれている……ってことでいいんだよな?」

 改めて言葉にすると、それは間抜けさを漂わせた問いになっていて、俺は無性に頬を掻きむしりたくなった。

「わざわざ確認することかしら。好きに決まっているじゃない。そうじゃなかったらすぐに断っているわよ」
「そ、そうか」

 胸の内に薄っすらとした安堵が広がった。しかし、それで不安が消えてくれるわけではなかった。
 正直なところ、夏葉の好意に関して自信があった。九年近く共に活動してきたのだ。好かれているという自負はあったし、好いているという自覚もある。それは夏葉も同じだろう。

 こと好意に関しては、互いの気持ちを確信できている。それは間違いない。だからこそ、夏葉の態度が腑に落ちなかった。
 そういう解せない感情を察したのか、俺が訊ねるより先に夏葉が口を開いた。

「想像できないのよ」
「……想像?」
「アナタとの生活が、どういうものになるのかわからなくて」

 信号が赤から青に変わる。なるべく静かな発進になるよう心がけて、じわりとアクセルペダルを踏み込んだ。



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