1: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 20:18:09.72 ID:clFucneV0
  
  ■ 一章 不在  
    
  「申し訳ございませんが、部署をお伺いしてもよろしいですか」  
    
  とある芸能プロダクションを訪れ、受付で目的の人物を伝えたところ、返ってきたのはそんな言葉だった。  
    
  初めは、伝える情報があまりに少なかったせいで、部外者である私が関係者もしくはアポがあるかどうかの確認のために聞き返されたのだと思ったが、該当の部署と役職を伝えても、受付の女性は首をかしげるばかりであった。  
    
  最終的に受付の女性は「少々お待ちくださいませ」と頭を下げ、どこかへ内線で連絡をとり始める。   
    
  「お忙しいところ失礼致します。芸能課に――様という……はい、お客様がお見えで……あっ、はい。……はい。確認致します」  
    
  ことん、と内線電話の受話器が置かれる。  
    
  「お待たせ致しました。……その、――様なのですが、現在そのような者は在籍しておらず……」  
    
  「えっ」  
    
  そんなばかな、と声が漏れかけるのをすんでのところで押し留める。  
    
  異動だろうか。  
    
  いや、まさか。  
    
  あの部署以上にあの男の能力が発揮される場所など早々ありはしないだろう。  
    
  ということは。  
    
  「お客様のお尋ねの方かどうかは存じ上げず申し訳ございませんが、同じ苗字の方は昨年度で退職なされた、とのことでございます」  
    
  頭上に雷が落ちたような気がした。  
    
  一瞬、わけがわからなくなって、数秒経ってようやく脳が理解をし始める。  
    
  やっとのことで意味が呑み込めた私は、ただただ呆然とした。   
    
  「退職……」  
    
  目の前が真っ暗になる、というのはこういうときに言うらしい。  
    
  しかし、いつまでも受付前で立ち尽くしていては迷惑極まりないのも事実。  
    
  目的の人物がいない以上は、ひとまず退散するしかなさそうだった。  
  
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2: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 20:19:54.57 ID:clFucneV0
   
  受付を後にして、そのまま建物を出る。  
    
  訪れた芸能プロダクションの敷地からしばらく離れた後で、すぅと息を吸い込み鬱々とした気持ちを最大限乗せて大きく吐き出した。  
    
3: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 20:22:06.68 ID:clFucneV0
  
 さて、ここからがようやく本題。 
  
 私が彼を尋ねた理由。 
  
4: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 20:24:03.32 ID:clFucneV0
  
 ○ 
  
 決意が固まったあとの私の行動は迅速だった。 
  
5: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 20:24:50.83 ID:clFucneV0
  
 ○ 
  
 自室の収納ケースをひっくり返し、アイドル時代に使用していたスケジュール帳を三冊、つまりは三年分取り出して、再び家を出た。 
  
6: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 20:26:00.53 ID:clFucneV0
  
 ○ 
  
 喫茶店に入り、席に通されるのと同時にコーヒーを注文し、早速今後の方針を決めるため、持ってきた荷物を机上に広げた。 
  
7: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 20:27:37.04 ID:clFucneV0
  
 ■ 二章 体験入部 
  
  
 その夜はひどく冷え込んだ。 
8: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 20:31:04.92 ID:clFucneV0
  
 威圧するような、あまりに大きなその声は、初めは私に向かって飛んできたのだと思ったけれど、周囲にそんな声を発している人間はいない。 
 立ち止まり耳を澄ませると、どうやらそれは一つ先の曲がり角から発せられているらしいことが分かった。 
  
 覗いてはいけない。 
9: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 20:33:23.15 ID:clFucneV0
  
 うそ。 
  
 なんとかなっちゃった。 
  
10: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 20:35:58.92 ID:clFucneV0
  
 やがて到着したのは、駅に程近い小さな公園だった。 
  
 肩で息をしながらベンチに腰掛ける男性に続き、私もその隣へ少し間を空けて座る。 
  
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