樋口円香「天国とは程遠く、地獄と呼ぶには温かで」
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3: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/04/13(月) 20:28:31.11 ID:HUVzNnIg0
◆
手帳から顔を上げ、視線を横にずらす。
視界の端で、びしりとスーツを着込んだプロデューサーがビジネスバッグをぱちん、と閉めて「よし」と呟いているところだった。
いつも以上に気合が入っていることが、私の目からでもわかる彼は、先程閉じたばかりの鞄を再び開けて、もう一度中身をあれこれ確認し始める。
なるほど。
あれが傍にいれば、私は冷静でいられるな。
半分呆れながら、ソファの背もたれに体重を預けて、そう思った。
「覚悟は決まりましたか」
いい加減に焦れてきた私は、デスクの上で深呼吸を繰り返しているプロデューサーへ声を投げる。
「ああ。円香は」
「私はいつもどおり、普通です」
「……頼もしいな」
「そう言うあなたは、今日も頼りないですね」
「情けないことに、な。……よし、じゃあ行こうか」
彼は、じゃらりと社用車の鍵を掲げて、言う。
それに私は無言の肯定を返して、玄関へと歩いていく彼に続いた。
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