樋口円香「天国とは程遠く、地獄と呼ぶには温かで」
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4: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/04/13(月) 20:29:39.51 ID:HUVzNnIg0
〇
社用車に乗り込み、ややかたいシートに深く座る。
窓の外へとぼんやり視線を放り、目を閉じた。
やがて電子音が静かに耳に届いて、エンジンが始動したことを知る。
とんっ、たんっ、という駐車場を出る際の振動が背中に伝わったあとは、穏やかで、心地の良い揺れのみとなった。
「円香、何か飲み物とか」
「必要ないです」
短く辞して、言葉を続けるべく口を開く。
すると、「現場入り前ですから」と声が重なった。
「流石、円香はもうプロだよ」
「……わかっているなら、今の問いの意味はなんなんですか」
「さぁ、なんだろうなぁ。……まぁ、オーディションが終わった頃には準備しておくから、リクエストがあれば今のうちに聞いておくよ」
「……はぁ。…………お任せします」
「了解。ミネラルウォーター、だと縁起が悪いかな」
にやりと口角を上げて、いつかに晒してしまった醜態を茶化してくるプロデューサーには無視で以て返し、再び目を閉じた。
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