黒埼ちとせ「メメント・ウィッシュ」
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31:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/11(木) 20:08:56.22 ID:fM9nM/xA0
 きっとちとせは、自分の未来に絶望しながらも、絶望の中で、千夜に未来を仮託すること以外の保険を残していた。勿論これは勝手な推測に過ぎない。それでも、そうとしか思えないようなことが数々あった。

 例えば、宣材写真の時だってそうだ。自分がもしこれから死ぬとして、その運命に絶望して千夜を人生の代理人に選んだというだけなら、わざわざ写真写りについてこだわる必要はない。
 だが、写真は消えないとはいわなくとも、残り続ける。それこそ、本人の命が失われたって、百年単位で、今ならきっと千年ぐらいはデータを移し替え続けることで存在を残し続けることが出来るはずだ。
 俺の兄弟だった猫は死んだ。だけど彼の生前の姿はアルバムに収められていて、それを読み返せば、今でもあいつと過ごした日々が昨日のことのように思い出せる。祖父も、祖母も。例え命が尽きたって、そうして誰かの記憶の中に生き続ける。
 だから、アイドルを選んだんじゃないのか。そして、写真に拘ったんじゃないのか。それは皆の記憶に残るから。例え黒埼ちとせが死んだって、存在を覚えている人の中で思い出としていき続けられるから。
 それだけじゃない。

「君が……君が、いつも自分の余命について冗談めかして言ってたのは、それが冗談であってほしかったからじゃないのか」

 言霊。自分の余命を茶化し続けることでいつしかそれが本当に冗談になるという奇跡を待ちわびて、いつもちとせは笑っていたんじゃないかと、そう思うのだ。
 だけど、目覚めてくれなければ確かめようもない。言葉は交わさなければ確かめられない。自分の中で幾ら訊いたって、返ってくるのは誰かの答えじゃなくて自分の答えだ。
 だから。
 一体どれほどの時間が経ったのだろう。一秒が永遠に引き延ばされていくような沈黙の中で、こいねがうようにちとせの右手を握りしめて、歯を食いしばりながら神に祈っていた、その時だった。


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