高森藍子が一人前の水先案内人を目指すシリーズ【ARIA×モバマス】
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42: ◆jsQIWWnULI
2020/08/16(日) 18:51:52.80 ID:zzfrO0HF0
二つ目の水上エレベーターを昇り終えた時には、すでに辺りは夕焼け色に染まっていた。水上エレベーターで水の上昇を待つ間に食べたお弁当のサンドイッチに入っていたレタスの繊維が今更歯の隙間から取れる。アリア社長は、少しだけ揺れるゴンドラに揺られながらうとうとしている。

「あ」

急にそれは目の前に現れた。

「わぁ……」

言葉を出そうと思っても、なかなか思い通りに出てこない。焦げオレンジの光によって染められた白い巨人の大群が、私たちの目の前に姿を現した。風車の羽が回っていて、そのたびにびょうびょうと風の切れる音がする。それと同時に一面に生い茂っている草むらが、ざあざあと少し乾いた音をなびかせながら風車の羽の織りなすベースに色を加えている。

「響き……すごい……」

目を閉じればそこは天然のオーケストラみたいで、私の身体を震わせる。自分の心臓がかすかに揺らされる。

「藍子ちゃん」

アイさんが岸辺に寄るように指をさす。私はそれに従って、ゴンドラを横付けする。

「よいしょ」

アイさんがゴンドラから降りて、私を手招きする。アリア社長もいつの間にかゴンドラから降りていた。

「藍子ちゃん」

アイさんが私の方に手を伸ばす。私がその手を左手でつかむと、アイさんはそのまま私を引っ張った。私の身体が地面の着地する。

「おめでとう」

「へ?」

アイさんはそう言うと、引っ張られた私の手から、手袋が外された。

「え?」

何が起きているのかさっぱりわからない私に、アイさんがほほ笑みながら口を開く。

「あなたはこの難易度が高い陸水橋水路を無事に一人で漕ぎ切りました」

「……は、はい……」

普段とは少し違うアイさんの雰囲気に少しだけ体が硬くなる。そんな私の姿を見て、アイさんは笑いながら言う。

「そんなに硬くならなくて大丈夫だよ……今日一日かけて藍子ちゃんが通った水路は、実は両手袋の昇格試験にも使われる水路なの」

「昇格……試験……?」

「そう。そして藍子ちゃんはその水路を難なくこなすことができた。だから、合格」

「合格……」

「藍子ちゃんは、今日から片手袋、だよ」

アイさんはそう言って、私がさっきまでしていた手袋をフリフリと振る。

「あ…………」

「あ?」

「ありがとうございます!アイさん!」

私は勢いよくアイさんにお辞儀した。

「やだなぁ、藍子ちゃん。私は何もしてないよ?頑張ったのは藍子ちゃんなんだから」

アイさんは私の頭に手をおいて、ポンポンと優しく撫でてくれた。

「ね、見て、藍子ちゃん」

アイさんは私にそう言う。私はアイさんに言われるまま顔を上げて、アイさんがさす方を向く。

「っ……」

そこには、沈みかけている夕日と、それを映す海と、優しい光に包まれたネオ・ヴェネツィアの街があった。

「ここからはね、ネオ・ヴェネツィアが一望できるの。だから、希望の丘って呼ばれてるの」

「希望の……丘……」

目の前に広がる景色は、どこか神秘的で。普段住んでいるネオ・ヴェネツィアが少し違った場所に見える。だからこそ、この素敵な風景を忘れたくなくって、私は首にぶら下げたカメラの存在も忘れて、ひたすらその光景を目に焼き付けていた。


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