5: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/08/26(水) 23:26:35.34 ID:qUczw4Pjo
褐色の男は大仰にはぁ、とため息をついて、それからくしゃくしゃと頭を掻いて、話し始めた。
「マジで忘れてんすね、俺のことも、テメェのことすらも。そんなことって、ある?事実は小説より奇なりってか?」
独り言はやけに大きい。ていうか、意外にもインテリジェンス溢れた言葉遣いをすることに驚いた。見た目からはそんな要素が全く見て取れなかったからだ。俺の目が狂ったのか?いや、人は見かけによらずという方が良さそうだ。
「俺、酒井 健太、アンタの相方。んでアンタは平子さん……平子 祐希。二人揃って、俺らお笑い芸人よ?つっても全部忘れてるみたいっすけど」
「……は」
なにを、いっている?
降って湧いた突然の情報に目が眩む。意味が分からない、わけが分からない。
何を言っている、彼は?作り話にしてはランクが低すぎた。俺の、相方?芸人?なに、なぜ、何が……?
「……酒井」
しかし彼の名を言葉にしてみると、不思議にしっくりきたのは、そういうことなのだろうか?呼びなれた名前、と言うことなのだろうか。初めてのはずなのに、妙な感じがして恐ろしく思えてきた。
「んで」
短く声を上げて、酒井は次の話をしようとする。ぱん、と手を叩き、わざわざ改めて注目を向けさせて、それから再び大仰に大真面目に語りだす。
「俺は正直、ずっとアンタを探してました。そしたらここにそれっぽいのがいるって聞いて来たんすよ、でも平子さん逃げちゃうし……まあ、覚えてなきゃ当たり前かと思って」
「それでわざわざ、会社に、連絡を」
聞いてきた?引っかかるワードが出てきたが、それを掘り下げても話は進まないだろう。
にしても、こいつも律儀なんだかなんなんだか。ただ頭が悪く突っ込んでくるだけのイノシシのような性格ではないことは確かだ。
「早かったんで」
「ああ、そう……正規の方法で会うなら確かに最短か」
不思議と納得する。納得している場合じゃないんだけれど。
「そんで俺はアンタに全部思い出してもらいに来ました」
彼は真剣にそう言った。
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