38:名無しNIPPER
2020/09/19(土) 23:07:58.34 ID:66ORp3Ez0
 勇者「言っただろ。知らなくちゃいけないと思ったんだ。 
 何が起こったのか。どうしてこんなことが起きたのか。 
 だってそうしないと、先に進めないだろ。 
 何が原因だったのか。どうすれば防げたのか。どうすれば、この不幸を乗り越えられるのか。 
 確かにあの人たちは悪人だったけれど、特別邪悪に生まれたわけじゃないと思うんだ。 
39:名無しNIPPER
2020/09/19(土) 23:08:58.98 ID:66ORp3Ez0
 勇者「多分、僕なんかじゃ到底理解できないような欲望を持った人はこれからも生まれてくると思う。そのほとんどはその欲望を抑えて生きていくけれど、その中の一部の人がそれを発散する機会を得てしまって、犠牲者が生まれる。もちろんその人達を罰することで、その人達が犠牲者を増やすことは防げるよ。でも、それだけじゃ被害にあう人はゼロにはならない。」 
  
 この人のように、と考えて魔法使いの手をぎゅっと握る。彼女は何か考えているのか、先ほどから下を向いて黙り込んでいた。 
  
 戦士「じゃあ、どうするんだ?」 
40:名無しNIPPER
2020/09/19(土) 23:10:12.19 ID:66ORp3Ez0
 勇者「いよいよだね。」 
  
 「町のはずれの塔で監禁されていた魔法使いについて訴えたいことがある」といって国王との面会を申し込む。 
 城の外で待っていると、案の定刺客が差し向けられた。口封じが目的だろう。その刺客を返り討ちにした後、裕に1時間以上待たされてからようやく応接室に通された。 
 戦士「ようやくかよ。ったく、いつまで待たせんだ。」 
41:名無しNIPPER
2020/09/19(土) 23:11:34.82 ID:66ORp3Ez0
 役人「お待たせしました。」 
  
 嫌な予感が的中する。応接室に入ってきたのは、王ではなく役人を名乗る男だった。 
 魔術師のような恰好をした男を連れている。おそらくこいつが兵士の言っていた呪術師だろう。 
  
42:名無しNIPPER
2020/09/19(土) 23:12:42.01 ID:66ORp3Ez0
 勇者「ええ、少し負傷はしていますけど。」 
  
 役人「いえ、構いませんよ。どうせなら処分しておいて欲しかったくらいですから。」 
  
 勇者「何ですって?」 
43:名無しNIPPER
2020/09/19(土) 23:13:23.12 ID:66ORp3Ez0
 役人「ええ。私が部下に命じたのは「魔法使いの説得」です。あの塔でどんなことが行われていたかは分かりませんが、実行犯はあくまであそこの兵士たちです。私の罪状は監督不行き届きで済むでしょうね。それに私は他の役人や大臣と持ちつ持たれつの関係でしてね。数年の刑期を言い渡されたとしても、それよりずっと早く牢から出られるでしょう。何か不満がおありですか?」 
  
 役人が意地悪く笑みを浮かべながらそう言う。 
 まずい、と思った。 
  
44:名無しNIPPER
2020/09/19(土) 23:14:36.29 ID:66ORp3Ez0
 勇者「そうだとしても、あなたの悪事は必ず明るみに出します。呪いを解く方法は自分たちで探しますから。」 
  
 悪くなった流れを止めようと、きっぱりと言った。 
  
 役人「それでは私の気がすみません。いかがでしょう?もしこの件を内密にしていただければ役人の立場を利用して彼女の呪いを解く手立てを全力で探しますし、多額の慰謝料もお支払いいたします。呪いが解けるまで彼女にはこの城に住んでいただいて、何不自由ない生活をしていただきます。」 
45:名無しNIPPER
2020/09/19(土) 23:15:20.41 ID:66ORp3Ez0
 役人「先ほどは塔の兵士は殺していないと言ってましたけど、本当ですかねえ。殺したつもりはなくても、何かの拍子に死んでしまってるかもしれませんよ?多少人の道から外れた行為をしていたとはいえ、国の兵士を何人も殺したとなればそれなりの罪に問われるでしょう。」 
  
 そういうことか。外で随分と待たされた理由が分かった。おそらくこいつは既に塔に部下を向かわせ、一人を残して塔の兵士を皆殺しにしているのだろう。そしてその一人はこう脅迫されているはずだ。 
 『お前も他の兵士のように殺されたくなければ、裁判でこう証言するんだ。「ここで行われたことは私たちが独断でやったことです。他の兵士は女を助けに来た勇者に殺されました」と。』 
  
46:名無しNIPPER
2020/09/19(土) 23:16:33.97 ID:66ORp3Ez0
 勇者「あなたはさっき、あなたの悪事を見過ごせば彼女には城で何不自由ない暮らしを送らせてくれるって言いましたよね。あれは本当ですか?」 
  
 役人「ええ、勿論です。最高の待遇を約束しますよ。」 
  
 勇者「嘘ですね。」 
47:名無しNIPPER
2020/09/19(土) 23:17:28.40 ID:66ORp3Ez0
 最初の予定では、役人を断罪し、彼女の呪いを解いてもらい、大手を振ってこの城を後にするはずだったのだ。実際は自分の方が犯罪者になりかけ、役人に彼女へ謝罪させることもできていない。情けなくて自分が嫌になるが、どうにかして彼女の呪いを解く方法を見つけなければ、と気を取り直す。そしてその場を後にしようとしたが、役人が強い口調でそれを制した。 
  
 役人「お待ちなさい。城に事実確認に行っている私の部下が戻ってくるまで外に出すわけにはいきませんね。あなたは大罪人の可能性があるんですから。それまでは落ち着いて、もう少し考えなさい。」 
  
 冷静を装っているが、役人の声には明らかに怒りが滲んでいた。 
48:名無しNIPPER
2020/09/19(土) 23:18:29.45 ID:66ORp3Ez0
 立ち上がってそう言い放ち、二人を連れて外に出ようと思ったその時、 
 「勇者、ありがとう」 
 と声がした。一瞬誰の声か分からず声のした方を見ると、魔法使いが片方の手の平を役人たちの方へ向けているのが見えた。 
 勇者「え」 
 「メラゾーマ!」 
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