4:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 22:57:01.80 ID:6NLLeJ5C0
その儚く蒼い瞳は、千夜を見ているのか、それより奥の何かに関心を寄せているのか、測りかねる具合に澄んでいた。語り口が訥々と、こちらの反応を伺うような調子なのでなかったら、千夜は自分がこの場に存在しているのかどうか、疑うばかりだっただろう。
聞こえていますよ、と首肯で伝えた。それを受けて、鷺沢文香は続けた。
「アリババ≠ニいうのは人名で、アラビア語の読み方で≪アリー・バーバー》、これがアリおじさん≠ニいった意味を持ちます。彼はそれなりの大人で、妻も息子も居るのですね。
さて、ペルシャのある町で、貧乏なアリババは、真面目に木を切って暮らしていました。ある日の事、アリババがいつものように森へ行くと、そこへ盗賊の集団が、やって来ます。隠れて様子を見ていると、盗賊の頭領が、岩の前へ立ち、≪開け、ゴマ≫と叫びました……
その呪文に応え、岩に隠されていた扉が開き、洞穴への入り口を露わにします。盗賊たちがそこへ入り…… やがて出て来て、どこかへ去ると、アリババは、自らも呪文を試してみます。≪開け、ゴマ≫……
そうして入ってみると、その中は、盗賊たちの戦利品や、金貨や銀貨を詰め込んだ袋で、沢山なのでした。アリババは、恐る恐る、金貨の袋を持ち帰りました。
ところで…… 家で待っていたアリババの妻は、夫が持ち帰った金貨を見て、驚き、彼を難詰します。彼が盗みを働いたものだと、ショックを受けてしまうのですね。菊池寛の日本語訳では、アリババはこう返すのですよ。
≪なんで私がどろぼうなんかするものかね。そりゃ、この袋は、もともとだれかがぬすんだものには、ちがいないがね≫……」
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