【ウマ娘】トレーナー「なんかループしてね?」【安価】
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551:いぬ ◆FaqptSLluw[sage saga]
2021/06/30(水) 03:36:41.75 ID:N44xGpXe0
―――

 寂しい。その言葉を聞いた時、まるで頭を殴られたような衝撃を覚えた。

 俺は孤独だ。正しく孤独だった。俺は凡人だ。正しく凡人だった。だから人に関わることは得意ではないし、関わってはならないとすら思っていた。――人に干渉して、その結果変わってしまったらと思うと恐ろしかったから。

 だから、何も話さないことが正解だと思った。職業が職業だから、ウマ娘とは仲を紡ぐことが大事だし、そこだけはきちんとこなすべきだとは思ったが、それ以上についてはやるつもりがなかった。

 それこそが最良だと思っていた。それこそが――彼女たちが望む道だと思っていた。

 でも、でも――目の前の光景を見て、それが確かだと言えなくなった。

 顔を覆って泣きじゃくるマヤノの姿はとても痛々しくて。とても――孤独だった。

 理解した。確かに俺は孤独だったけど、マヤノも独りぼっちだった。

 真に心を開かない俺のことをずっと心配している間、マヤノは独りぼっちだった。ずっと一緒にいる、ともに走ると誓っていたのに頑なに口を開かない俺を待っている間、ずっと独りぼっちだった。

 性質は確かに異なる。俺は環境が生んだ孤独で、マヤノは状況が生んだ孤独。でも、そこに何の差があるというのだろうか。寂しいという気持ちは、誰であっても変わらないものだというのに。

 ただ。ただたった一つ違うことがあるとするならば――マヤノは俺のことを信じていた。俺はマヤノのことを信じ切れていなかったのに。

 そのことが、ただただ痛い。でも、こんな痛みはマヤノの抱えていた痛みに比べればまだ優しい痛みだ。俺は――自分の状況を誰も理解してくれないと管を巻いて、絶えず発生する傷口を舐めていたが、マヤノは"待つ”――発生する傷口を真っ向から受け止め、それでも前を向いていた。


「……トレーナーちゃん?」


 そう考えると、心底嫌になった。こうして管を巻いている自分のことが。そして――今もなお傷付いているマヤノを、それでも放っておこうとした自分のことが――!

 こぶしを握って、それを強かに頬に打ち付ける。口の中が切れて、血の味が口いっぱいに広がる。目が覚めるような衝撃だった。裂傷が痛むが、そんなの関係ない。

 驚き目を見開くマヤノを――そんな資格はないけど、それでも俺は抱きしめた。細い体が冷え切っていて、触れる肌がとても冷たかった。暖房もつけずにこんな部屋にいたら当然だ。


「ごめん、マヤノ――!」
「え、え……?」
「俺は、自分の孤独にばっかり目を向けていて――結果的にマヤノのことを独りぼっちにしてしまった!」


 力強く、どこまでも力強くマヤノを抱きしめる。


「話しても信じてくれないと思ってた! 話したらマヤノがもっとつらい目に合うと思ってた! でも、でも……それがマヤノをもっと悲しませてたってことに、俺は気付いてなかった……」
「トレーナーちゃん……」
「マヤノ。やっぱり俺はお前のトレーナー失格だ」
「……そんなことない! だって、だってトレーナーちゃんは、マヤのことを頑張って育ててくれてた! 俺には何もない、って言いながらも、必死にあがいて、マヤのことを凄く考えてくれてた! だから、だから――」


 マヤノが、顔を胸にうずめて、小さく声を震わせる。煙のように消えそうな言葉で、たった一言呟いた。


「――だから、マヤのトレーナーは、トレーナーちゃん以外にありえないんだよ……!」


 マヤノはぎゅっと、服を掴んだ。……声だけじゃなくて、手も震えていた。いつもは元気に動いている耳も、尻尾もへたりこんでいた。その様子は、まるで捨てられてしまった子犬のようで。

 今更ながらに、自分が何をしてしまったのかを自覚する。これほど信じてくれた相手を切り捨てるような真似をした上に、あまつさえ泣かせてしまっている。

 真実を話しても許されることではないと思った。でも、それでもマヤノが認めてくれるのであれば、俺は彼女の隣にあり続けたいとも思う。見合わなくても、相応しくなくても。

 マヤノの信頼に応えたい。欠けてしまった信頼を取り戻したい。――そして何より、マヤノトップガンというウマ娘が駆ける夢を共に見ていたい。

 だから。


「俺は、マヤノのトレーナーになっていいのか……?」
「……マヤのトレーナーは、トレーナーちゃんしかいないんだから……! もう、もうぜったいに! 失格なんて言っちゃダメなんだから!」
「……ああ、ああ」
「だから、マヤから離れていかないで、嘘でも辞めるなんて言わないで……! ――ユー・コピー?」
「……。――アイ・コピー!」


 もう少し、もう少し秘密を話すのには時間が必要だと思う。でも、それでも――彼女が俺を信用してくれているように、俺もマヤノのことを信用したい。

 変化を恐れていては前に進めない。もう前には戻れないかもしれないけど――この先の道も、きっと悪くないって、なんとなくそう思えてきた。

 マヤノとともに歩くことで、俺はもっと、変化を恐れずに進むことができるようになる。

 ふと窓の外を見れば、雪が降り始めていた。――冷え冷えとした空気が満ちるが、不思議と寒くはなかった。……むしろ、少し暖かい。泣きたくなるほどに、暖かい空気が、瞳に満ちた――。


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