【シャニマス】芹沢あさひ(17)「わたしも、変われてるっすか?」
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1:名無しNIPPER
2021/07/15(木) 20:26:05.68 ID:zC+4wYex0
 変わるものと変わらないものがある。

 身長や髪の長さ、ストレイライトが集まる頻度。それに対して、事務所の場所、わたしがアイドルであること、プロデューサーさんの身長。どこに違いがあるんだろう。

 空が高い。濃いくらいの水色に、宇宙船くらいありそうな入道雲が映えている。襟の中に籠る熱を逃がそうと、服を摘んでパタパタと仰ぐと、胸元には風が入ったけど、襟周りはちっとも涼しくならなかった。暑い。ミーン。蝉の声。

 信号が変わって、アスファルトをスニーカーで蹴り上げると、ちょっと古くなったスニーカーはキツいような気がした。新しく大きいのを買った方がいいかもしれない。今やってる舞台が終わったら買いに行こうかな。
 昔は靴や服なんて使えれば何でもいいと思ってたけど、最近は少しだけ選ぶようになってきた。たぶんあの2人の影響だ。最近会えてないけど。最後に会ったのはいつだろう。すぐに思い出せなくて、額に浮かんだ汗をぬぐったら、思考がバラバラになった。

 ストレイライトって、解散したのかな。

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2:名無しNIPPER
2021/07/15(木) 20:31:26.52 ID:zC+4wYex0
 十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人。
 誰に言われたわけでもないけど、誰かに言われたように、いつからか頭の中にこびりついている。

 自分で、自分は他の人と違うということは理解していたけど、自分を神童や天才と思ったことはなかった。でも周りがそう扱っていると、次第に自分の中でもそういう気になってくる。
 扱ってくれていたけど、どこかでそれは「芹沢あさひはまだ幼いから」という前提がついてくる。私は中学生だった。だからすごかった。
以下略 AAS



3:名無しNIPPER
2021/07/15(木) 20:32:49.47 ID:zC+4wYex0
「お茶もあるよ?」
「水がいいっす」

 パキ、パキ、と音を立ててヒビが入る氷を掌の中に感じながら、くるくる回して一気に飲み込んだ。喉が癒える。水道臭くて美味しくはない。お茶にすればよかった。

以下略 AAS



4:名無しNIPPER
2021/07/15(木) 20:34:26.98 ID:zC+4wYex0
「あさひはしばらく舞台の方がメインになるな」
「そっすね」

 不機嫌な顔をしてしまっていたのか、プロデューサーさんはソファには座らず、自分の席に戻った。わたしは膝を抱えて、プロデューサーさんが淹れてくれたアイスコーヒーを眺める。

以下略 AAS



5:名無しNIPPER
2021/07/15(木) 20:36:28.33 ID:zC+4wYex0
 プロデューサーさんが直接きてくれることは減ったけど、こうしてわたしが帰りに事務所に寄るとだいたいいるので、会う頻度が減ったわけではなかった。ストレイライトとは違う。

 愛依ちゃんと冬優子ちゃんとは、2年くらい前から会う機会が減っていた。愛依ちゃんが20歳で、冬優子ちゃんが21歳の時。たしか、さみしいなと思ってしばらく経った頃、気が付けば、事務所のテレビでドラマを通して冬優子ちゃんをみることの方が多くなってた気がする。でもあれは冬優子ちゃんじゃない。ふゆちゃんだ。愛依ちゃんもだいたいそう。

 あの頃から、2人と繋がりたくてSNSをよく見るようになった。今では意味もなく開いてしまうこともあるけど、きっかけはそこだった覚えがある。果穂ちゃんの投稿にいいねをつけて、スマホをソファに投げ出した。
以下略 AAS



6:名無しNIPPER
2021/07/15(木) 20:37:10.97 ID:zC+4wYex0
 変わらないものもある。

 プロデューサーさんは、ずっとわたしのこと見てるって約束してくれた。だからこうして事務所に来れば会えるし、稽古の様子も聞いてくれる。

 ストレイライトはグループとしての仕事仲間だから会わなくなることもあるけど、プロデューサーさんは仕事の相棒だから、会わなくなることはない。ずっと一緒。
以下略 AAS



7:名無しNIPPER
2021/07/15(木) 20:38:02.31 ID:zC+4wYex0
 変わってしまったものは元には戻らない。

 例えば、切った髪は簡単には元の長さには戻らない。見慣れてないからかもしれないけど、わたしは髪が長い方が冬優子ちゃんらしいと思う。

「何よ、埃でもついてる?」
以下略 AAS



8:名無しNIPPER
2021/07/15(木) 20:39:15.93 ID:zC+4wYex0
 冬優子ちゃんが前屈をしようとしていたから、背中を押そうと後ろに近づいて、やっぱりやめた。何事もなかったようにバーに手をついて、アキレス腱を伸ばす。

 変わるものは外側だけではなかった。たぶん内側の、わたしも変わっているのだと思う。
 冬優子ちゃんがわたしのことを好きじゃないことは、なんとなくわかっている。でもそれは別に嫌われているとかそういうことではなく、本来であればわたしは冬優子ちゃんに構ってもらえるタイプの人間ではない、という意味に近い。
 ユニットメンバーだから構ってくれる。逆に、わたしもユニットが違ったら冬優子ちゃんとはあんまり話してなかったかもしれない。
以下略 AAS



9:名無しNIPPER
2021/07/15(木) 20:40:02.74 ID:zC+4wYex0
「そ……そうっす! 再来週です!」
「再来週ね。空けとくわ」

 冬優子ちゃんは鏡越しにわたしの顔を見ながらストレッチをしている。

以下略 AAS



10:名無しNIPPER
2021/07/15(木) 20:40:57.64 ID:zC+4wYex0
 カチ。
 音が鳴ったら、レッスンは終わってた。

「お疲れ様、2人とも今言った課題を次のレッスンまでに完璧にしてきてね」
「はい、わかりましたぁ」
以下略 AAS



11:名無しNIPPER
2021/07/15(木) 20:41:44.04 ID:zC+4wYex0
「冬優子ちゃん」

 冬優子ちゃんが着替えに向かったので、わたしもそれに倣って着替えを済ませて、冬優子ちゃんに汗拭きシートをわけてもらって、制服に着替え直した。シャツを新しいのに変えたから気持ちいい。

「もう帰るんすか?」
以下略 AAS



12:名無しNIPPER
2021/07/15(木) 20:42:36.78 ID:zC+4wYex0
 事務所に戻ると、リビングには誰もいなかった。でも鍵はかかってないから誰かいるはずで、いろんな部屋を開けてみる。倉庫は埃っぽくて、最近は使われていない様子だった。空の抜け殻だ。

 社長室を10回ノックしてみると、中から「芹沢か」と声が聞こえた。誰かいたことが嬉しくて、そうっす! と返事をしながら入ると、社長さんが飴をくれた。もう子供じゃないのに。でもよくみると黒あめだった。うーん。

「プロデューサーさん知りませんか?」
以下略 AAS



13:名無しNIPPER
2021/07/15(木) 20:44:26.29 ID:zC+4wYex0
 プロデューサーさんは放っておくとずっと事務所にいたがるから、たまに社長さんが早く帰るように言っている。そういう時は大体次の日元気そうにしてるから、やっぱり社長さんはプロデューサーさんのことよく見てるんだと思う。

 ソファの隙間に手を突っ込む。ひんやりして気持ちいい。
 社長さんとわたしは何を喋るでもなく、万年筆が紙の上を滑る音に耳を澄ませていた。悪くはない。心地は良い。でも暇だ。
 リビングに戻ろうと社長室の扉を開けると、帰り際に社長さんが向こうから話題を振ってきた。
以下略 AAS



14:名無しNIPPER
2021/07/15(木) 20:45:31.66 ID:zC+4wYex0
「敬語が上手になったな」

 リビングでなんとなく社長さんの物真似をしてみたけど、全然似てなかった。あんなに低い声出ない。

 1人のリビングはじっとしてると時計の針の音がよく響いてて、その奥に冷蔵庫の駆動音が混じっている。霧子ちゃんにはユキノシタさんの声も聞こえるらしいけど、わたしには植物の声は聞こえなかった。医学部に行けば聞こえるのかもしれない。ジィー。窓の外から油蝉。喉が渇いた。
以下略 AAS



15:名無しNIPPER
2021/07/15(木) 20:49:13.51 ID:zC+4wYex0
 定時で帰る、と言っていた。19時。
 戻ってくるのを待っていたら、もしかすると晩御飯一緒に食べれるかな、と期待して、ちょっと胸が躍った。でもまだ18時過ぎ。1時間はある。
 何時に事務所に戻ってくるかはわからないけど、戻ってくる前にどこかで晩御飯を済ませてしまっているかもしれない。それに、よく考えると1人とも限らない。誰かを送るついでに、一緒に食べてるかも。

 全員分の予定が書き込んであるホワイトボードを見てみると、透ちゃんの撮影がちょうど終わったくらいだった。あぁ。
以下略 AAS



16:名無しNIPPER[sage]
2021/07/16(金) 00:57:10.21 ID:OVIdFqWwo
期待


17:名無しNIPPER
2021/07/16(金) 17:36:13.36 ID:uWwhTOUj0
2

 変わったものもある。
 今思いつくもので挙げると、小宮果穂ちゃんとの関係は出会った頃と変わったと思う。

以下略 AAS



18:名無しNIPPER
2021/07/16(金) 17:37:03.36 ID:uWwhTOUj0
 今日はかなり暑いけど、事務所のリビングはエアコンが効いていて、もし朝からこの場所にいたとしたら、きっと外が暑いことは知らないままだったかもしれない。

「果穂ちゃん、最近夏葉さんに会った?」
「あー、最近久しぶりに会いましたね」

以下略 AAS



19:名無しNIPPER
2021/07/16(金) 17:37:32.18 ID:uWwhTOUj0
 手を伸ばすと、テレビの上にリモコンがあった。机の角度に対して水平になるように動かしていると、指がボタンに触れたようで、テレビが映像を流し始めた。

 夏祭りの映像だ。見たことあるリポーターの人が、東京のはずれっぽい商店街の夏祭りを紹介している。
 見たことあるのは、テレビで見たからなのか、仕事で一緒になったからなのか、よく覚えてない。

以下略 AAS



20:名無しNIPPER
2021/07/16(金) 17:41:52.45 ID:uWwhTOUj0
「もうすぐ浴衣の撮影があるんですよ」
「え、今日そうだっけ?」
「いえ、また来週のやつです。今日はスピンズの案件ですよ」

 びっくりした。今日は特にそんな気分じゃなかったから、浴衣だったらスイッチを入れるのに時間がかかってしまっていたかもしれない。
以下略 AAS



21:名無しNIPPER
2021/07/16(金) 17:43:10.56 ID:uWwhTOUj0
「あさひさん、」

 ちょっと言い淀んだイントネーションで、果穂ちゃんが話しかけてくる。テレビはもう飽きちゃったみたい。

「何?」
以下略 AAS



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