15: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:14:49.54 ID:FpkFq5Eu0
 「学校は確かに楽しいものですが……楽しいから通っているかというと、少し違いますね」 
  
  そんな俺も知りたかったけど知るのが怖い問いかけに、先輩は穏やかな表情で答えた。 
  
 「私が学校に通っているのは……憧れ……心残り……そういったものです」 
  
  在りし日の事を――まばゆい光のように思い返しながら、そう口にする。 
  
 「あなたには共感しづらいとは思いますが、わたしたち人間は子どもの頃は、数歳年上の相手が大人びて見えて憧れるんです。 
  小学生の時は中学生が大人っぽくて素敵に見えて――ああ、わたしもいつかは中学生になるんだ。あんな風に素敵なお姉さんになれるかな、なりたいなあ。中学校では何をするんだろう? わたしはこんな事をしてみたいなあ……と」 
  
 「先輩……」 
  
  子どもの頃の懐かしいオモチャに触れていたような楽し気な口調は、尻すぼみに途切れていく。 
  
 「……想い描いていたものは、全て無駄になりました。 
  それからはもう、子どもの頃の夢など考えないように、考えないように生きてきたのですけど……」 
  
  アルクェイドが目を見開き、前のめりになって先輩を見る。 
  俺だって同じ気持ちだ。 
  だって―――― 
  
 「遠野君の学校に潜入して、クラスの皆にクラスメイトとして接してもらえて……皆で授業を受けて、休み時間に些細な事で笑い合って……そんな当たり前の、わたしが失ったはずの夢が……どうしようもないほど、楽しくて仕方なかったんです」 
  
  今にも泣きだしそうなのに、心底嬉しそうに笑う先輩が――――とても、きれいだったから。 
  
 「アルクェイド。あなたが今の在りようを過去の自分に糾弾されているように、わたしも今の自分を過去の罪に咎められています。 
  咎人の身で、何をのうのうと生きている。生きているのなら戦えと。 
  一匹でも多く吸血鬼を滅ぼせ、一人でも多くの人を助けろ、一つでも多くの善行を為せ、と」 
  
  それは許されない者の言葉。 
  誰よりも、何よりも――自分自身に許されない者の、己への弾劾。 
  
 「でも卒業までの数ヵ月……どうかこれだけは許してください、見逃してください。 
  のうのうと生きる事が許される身でないと、重々承知していますが……どうかこの、失われたはずだった夢だけは」 
  
  そう、静かに言い終えて。 
  涙があふれ出そうになったからか、先輩は目を伏せた。 
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