2:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 20:25:32.25 ID:u50g9+A20
   
    
   アイドルになろうなんて思ったのは、小さな気まぐれだった。  
    
   色々なことにうんざりして、色々なことが嫌になって、色々なことから逃げ出したあの日の夕方。  
     
    
   そんな時にスカウトされて、受け入れて。きっと私は自棄になっていた。色々と。  
    
    
     
   それから何日かして、事務所に向かったのは、学校の帰り道。  
    
   学生服姿で潜るには、落ち着かないほど大きくて立派なビルだった。  
    
   受付で名前を言って、もし私の名前が無ければ?   
    
   きっとあの人は人を騙すのが趣味の嫌な奴で、騙されたと気づいた私は少し赤面して帰るんだろうな。  
    
   そうなっても、悪くない。  
    
   泡沫の不安と夢は弾けて飛んで、素晴らしく下らない日常に戻るだけ。  
    
    
   生憎、速水奏という私の名前はちゃんとあって、仮の通行証を渡された。  
    
   立派な建物だけど、所々アイドルのポスターが貼られていた。エレベーターホールにも掲示エリアがあって、デビューしたばかりという知らないアイドルのポスターが並んでいる。  
    
    
   見知らぬ少女達の親しげな笑みが、ここが芸能事務所なのだと改めて教えてくれた。  
    
    
    
   まだ、これが現実なのか自信が沸かなかった。  
    
   全ては白昼夢と言われても、私は納得しただろう。  
    
     
     
   だから、エレベーターが開いて奥の隅でジッと本を読んでいた彼女のことも、一瞬現実かどうか分からなかった。  
    
    
    
   
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