20:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 21:09:09.99 ID:u50g9+A20
  
  
 「私と文香、どっちが魅力的とか、そういう問題を考える方が馬鹿らしくない?」 
  
  
 「そりゃあ人によって、好みに差はあるけど」と、私は軽く肩をすくめた。 
  
  
 「そう……かもしれません」 
  
  
  口ではそう言うが、余り納得している感じではない。いまいち自信がないようで。 
  
  仕方がない。 
  
  私は笑みを作った。 
  
  
 「それに、貴方が魅力的だって言う私とこうやって一緒にアイドルのレッスンが出来ているってことは、貴方も魅力的ってことでしょ?」 
  
 「そんな……私なんて……」 
  
 「謙遜は文香の美徳だけど、もっと自信を持ってもいいと思うけど。文香が自分をその程度だなんて言うなら、私もその程度になっちゃう」 
  
 「そんなことありません。奏さんは」 
  
 「なら、文香もそんなことないわ。だって私は、文香は私と同じくらい魅力的だって思っているんだから」 
  
  キザなセリフ。自分で口にしておいて内心苦笑してしまう。 
  
  でも、文香にはそれ位言った方がきっと効果があるだろう。大きくなった文香の瞳孔が、私の考えを肯定してくれていた。 
  
  
  
  すぐに答えてくれればいいのに、文香はうつむいたまま歩き出した。 
  
  長い髪と薄い雨がカーテンとなって、文香の表情は伺えなかった。 
  
  そのまま、無言で私たちは歩いていく。 
  
  
  
  帰り道にありがちな、小さな沈黙。 
  
  気まずさもあったけど、どうしてか私は心地も良かった。 
  
  
  もし永遠にこの瞬間が続くのならば、私は喜んで雨の中を歩き続けるだろう。 
  
  
  
  なんてね。 
  
  
  
  
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