7:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 20:35:19.22 ID:u50g9+A20
  
  
  アイドルになったからと言って、すぐにあの煌びやかな世界に飛び出せる訳ではなかった。 
  
  湖を優雅に泳ぐ白鳥のようでも、水面下では必死に足をばたつかせている。 
  
  
  私は湖にまだ浮かんでもおらず、それどころか生まれてすらいない。卵だった。 
  
  私と同じようなアイドルの卵は、事務所の中には沢山いた。 
  
  そんなアイドルの卵の列に、私も加わった。彼女たちに交じって、私もレッスンをすることになった。 
  
  
  そんな卵の中に、文香の姿を見つけることがあった。 
  
  
  入った時期が一緒だったから、同じレッスンになることも多かった。 
  
  別に、そんな子は文香だけではなかった。ただ、気づけばいつも文香の隣に私が居て、私の隣には文香が居た。 
  
  他の子とそりが合わないとか、そういうわけじゃない。みんないい人だ。 
  
  色々な年齢の人達が居て彼女たちはみんな、アイドルという一つの目標に向かって切磋琢磨し合う。 
  
  そこには年齢も関係なくみんなが仲間であって、ライバル。 
  
  
  
  そう言う関係は悪くないけれど……私には、少し眩しすぎた。 
  
  同じ空間に居るのだけど、見えない枠があるようで。 
  
  みんなと同じ舞台に立っているのに、私は時折、ただ観客席から見て居るだけの存在なんじゃないかと、感じられた。 
  
  多分、文香も同じだったのだと思う。 
  
  
  
  二人とも眩い舞台の上に立ちながら、薄暗い観客席から、舞台の上に目を向けていた。 
  
  
  
  
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