【ポケモン】あなたと過ごす最後の日【LEGENDSアルセウス】
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1:名無しNIPPER[sage]
2022/02/17(木) 13:04:17.17 ID:tgweQ+Xjo
ショウがついに、ポケモン図鑑を完成させた。

それがどれほど偉大で大切なことか、カイにはよくわかっていた。広大なヒスイの地に住むすべてのポケモンを捕まえ、観測し、その生態を記録すること。ポケモンという時に恐ろしい生き物を深く理解し、「共存共栄」に向けて歩み寄っていくこと。それは「人間とポケモン」の在り方をも変える、歴史的な転換点のきっかけとなるものだ。

シンジュ団の長として、同じヒスイに暮らす人として、カイはショウを応援していた。そして時にお忍びで、ショウの調査を私的に手伝うこともあった。

それはひとりの少女として。ただの友人として。ただただ「協力したい」という、年相応の純粋な思いが止められずに、こっそりとショウに同行していた。シンジュ団の面々も気づいてはいたが、やがて長になる者として幼いころから虚勢を張り続け、同年代の友達もできなかったカイのため、見て見ぬふりをしていた。

ショウはカイにとって、「初めてできた親友」だったのだ。


原野を駆け、海を渡り、山を乗り越え、広い世界を飛び回った。手を取り合って洞窟を抜け、月明かりの差し込む泉を泳ぎ、うららかな花畑で眠り、そして笛を奏で合った。

調査記録が日に日に積み重なっていく一方で、ふたりだけの思い出もたくさん生まれた。ふたりはいつしか「親友」すらも飛び越えた、真に心の通じ合う関係になっていた。

だから、ショウがポケモン図鑑を完成させたとき、カイは泣くほど喜んだ。ショウが念願を成し遂げたことが嬉しくてたまらなかったのだ。驚く人は幾人かいたが、ふたりの仲がそれほどまでに深くなっていたことを知る人も、もはや少なくはなかった。


「図鑑が完成したからといっても、ポケモンの調査に終わりはありません」。ショウの図鑑完成を祝う宴の日、ラベン博士が言ったその言葉をカイは額面通りに受け取った。決められたルールに則った「調査」は完結したが、何かを知るということにゴールはない。ポケモンも人も常に変化し続ける生き物だし、どこまでいっても「果て」などないのだと。

まったくもってその通りだとカイは思った。だからショウと一緒に調査をするこの日々にも終わりはないのだと、無垢な子供のように信じきっていた。

「ショウがポケモンを各地に帰して回っている」という噂を聞くまでは。

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2:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/17(木) 13:05:58.64 ID:tgweQ+Xjo
「だって、いつまでもあたしの手元に置いておくなんて、恐れ多いじゃないですか」

ディアルガやパルキアに然るべき場所で別れを告げてきたというショウは、事情を聞かれると困ったような笑顔でそう答えた。

シンジュ団やコンゴウ団が神として崇めてきた存在を、ひとりの女の子が持っているというのはやっぱりおかしい。ここぞという場面では力を貸してもらい、調査までさせてもらったのだから、さすがにもう「お返し」しなければならない。そう思ったらしい。
以下略 AAS



3:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/17(木) 13:06:36.31 ID:tgweQ+Xjo
「すべてのポケモンを元の生息地に返しているわけではない。彼女が捕獲してきたポケモンの中には、すでにこのコトブキ村を故郷のように思う個体も大勢いる。そしてそんなポケモンたちと家族のように一緒に暮らす人々も、もうこの村では珍しくなくなった。すべてのポケモンと彼女なりに対話し、『本来あるべき場所』に返しているのだろう」

そう説明するシマボシを含め、調査隊の面々はショウの選択を尊重していた。ショウは所持するほぼすべてのポケモンの所有権を一度調査隊に移し、今後も調査の参考にしたいと博士が依頼したポケモンや、村の人々と共に暮らすことを選んだポケモン以外を、毎日少しずつ元の住処に戻すことに「協力」していった。

だがカイはもう、いつものようにショウの手伝いを申し出ることはできなかった。彼女が「この世界」との繋がりを絶とうとしているようで、怖くてたまらなかった。
以下略 AAS



4:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/17(木) 13:07:37.26 ID:tgweQ+Xjo
その日の空は綺麗に澄み渡っていて、輝く満月と星々が海の水面にまで反射して浮かぶ、とても美しい夜だった。

誘いを受けた側ではあるが、カイは夕方頃にもう浜に着いて、赤い陽が沈む様子を背に感じながら、ショウが来るのをずっと待っていた。グレイシアと共に砂の手の先に腰を下ろし、夜が更けるのを静かに待った。

グレイシアの耳がぴくりと動く。後ろの方で、砂浜を歩く足音が聞こえる。カイは、ゆっくりと振り向いた。
以下略 AAS



5:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/17(木) 13:08:17.02 ID:tgweQ+Xjo
「調査だったら、門番さんたちに行き先を教えないとでしょ? 今日は遊びにきただけだし、誰にも知られたくなかったから……内緒で出てきたんです」

「そ……そうなんだ。でも、どうして今日はその子だけ……?」

「……ははっ。自分なりに整理つけて、きちんとお別れしたつもりなんだけど……この子だけはあたしのことが心配みたいで、ずっとついてきてくれてるの。困ったなぁ」
以下略 AAS



6:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/17(木) 13:08:49.59 ID:tgweQ+Xjo
渚に腰を下ろし、ぴちゃぴちゃと海水に手を濡らしている。こうしてみると、やはりこの子は年相応の女の子なんだと実感する。そんなショウを、レントラーは離れた位置に座って見守り続けていた。カイはその目に、あのムクホークと同じ雰囲気を感じた。


「……本当に、みんな逃がしちゃったの?」

以下略 AAS



7:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/17(木) 13:09:58.44 ID:tgweQ+Xjo
……ショウの親。ショウの家族。

ショウはこれまで、自分が「元いた世界」のことを、カイに対してさえあまり話してこなかった。否、誰にも話してこなかった。

とくに「親」の話は、幼いころに親を亡くして顔も覚えていないというカイに遠慮して、半ば禁句のように扱っていたほどだ。カイもショウが遠慮していることには薄々気づいていた。
以下略 AAS



8:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/17(木) 13:10:47.63 ID:tgweQ+Xjo
「シンオウさま……アルセウスと神殿でお別れしたときに、言われたんです。『どちらに居たいか』って」

「!」

「そのときは、何も答えられませんでした。元の世界に戻るなんて、もう二度とできないことだと思ってたから」
以下略 AAS



9:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/17(木) 13:11:35.04 ID:tgweQ+Xjo
「あたしは確かに、自分から望んで『元の世界』を去りました。まさか自分が時空の裂け目に飲み込まれるなんて思ってなかったけど、確かに望んでこの世界に来たんです」

「……」

「あたしがもといた世界では……あたしなんて、特別でもなんでもない、ただの女の子でした。人より優れたところなんて何もなくて、友達もいなくて……つらい思いや寂しい思いもたくさんしました。どうしてこんな世界に生まれてきたんだろうって、いつも思ってた気がします」
以下略 AAS



10:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/17(木) 13:12:42.47 ID:tgweQ+Xjo
「……本当に……帰っちゃうの」

「……」

「そんなの、わたし信じられない……嫌だよ……」
以下略 AAS



11:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/17(木) 13:13:34.85 ID:tgweQ+Xjo
「ショウさんは……わたし以外の誰かに、相談したの?」

「……」

「い、いいんだよ、言っても。怒ったりしないから」
以下略 AAS



12:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/17(木) 13:14:22.95 ID:tgweQ+Xjo
核心に触れる質問に、ショウはしばらく答えなかった。

寄せては返す波の音だけがふたりを包む。

カイは、腕の中にいる少女が、自分を傷つけてしまうことを恐れて何も言えないのだということも十分理解していた。
以下略 AAS



13:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/17(木) 13:15:40.28 ID:tgweQ+Xjo
見たこともない世界。自分の常識が通じない時代。

はじまりの浜に落ち、あれよあれよと調査隊に入ることが決まってしまったそのときからずっと、ショウには元の世界のことが引っ掛かっていた。

家族を残してきたことへの後悔。もう元の世界に戻れないのではないかという不安。孤独感にさいなまれ、満足に眠ることもできなかったいくつもの夜。
以下略 AAS



14:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/17(木) 13:16:11.47 ID:tgweQ+Xjo
ショウの涙を見るのは初めてだった。

優しく抱きしめても、髪を撫でても、ショウの不安を取り除くことはできない。

初めてできた大切な友達が、心を預けられる想い人がこんなにも苦しんでいるのに、自分にできることはないのか。
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15:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/17(木) 13:17:04.47 ID:tgweQ+Xjo
いつか、こんな日が来てしまうのではないかと思っていた。

空から落ちてきた、時空の迷い人。

ショウがいきなりこの世界に現れたのと同じように、この世界から音もなくすうっと消えてしまう日が、いつかは来るのではないかと……カイも心のどこかで思っていた。
以下略 AAS



16:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/17(木) 13:17:42.16 ID:tgweQ+Xjo
泣き疲れてしまったふたりは、抱きしめ合った体勢のまま、砂浜にぽとりと倒れこんだ。

空には星々が瞬き、どこまでも、どこまでも広がっていた。


以下略 AAS



17:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/17(木) 13:18:22.18 ID:tgweQ+Xjo
「……わたしね、お母さんの顔は知らないの。物心つく前に亡くなっちゃったから」

「……」

「でも……ショウさんには、まだいるんだよね。お母さんが……大切な家族が、元の世界にいるんだよね」
以下略 AAS



18:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/17(木) 13:19:51.90 ID:tgweQ+Xjo
カイは身体を起こして座り直し、ショウを抱き上げて、自分の膝の上に乗せた。

頭巾を外し、前髪を流す。

こうして見ると……ショウはやはり、どうしようもなく普通の女の子だった。
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19:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/17(木) 13:20:32.85 ID:tgweQ+Xjo
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以下略 AAS



20:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/17(木) 13:21:42.76 ID:tgweQ+Xjo
「……」


もぞもぞと身を起こす。

以下略 AAS



21:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/17(木) 13:22:18.91 ID:tgweQ+Xjo
「……?」


あれだけ頑としてショウのことだけを見つめ続けていたレントラーがいない。

以下略 AAS



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