825: ◆tdNJrUZxQg[saga]
2022/12/09(金) 12:31:18.25 ID:9oar5n900
  
 私は簡潔に返事をして、踵を返す。 
  
  
 菜々「ちょっと疲れてるから……部屋で休むね」 
  
 菜々母「そう? それじゃあ、夜ごはんになったら、部屋まで呼びに行くわね」 
  
 菜々「うん」 
  
  
  
  
  
     🎙    🎙    🎙 
  
  
  
  
  
 普段は真姫さんの手配してくれた社員寮で寝泊まりしている──ということになっている──ため、家に帰ってくること自体が随分久しぶりだ。 
  
 ──そんな久しぶりの自室。 
  
 一息吐くために、荷物を置いて、使い慣れた机に向かって腰を下ろす。 
  
 久しぶりに帰ってきたというに妙にしっくりくるのは、何度もこの机で勉強をしてきたからだろう。 
  
 回転椅子の上で振り返り、久しぶりの自室を見回すと──本棚にはたくさんの参考書たち……そして、賞状やトロフィーが飾られている。 
  
 読書感想文や、スクールで主席に送られるもの。陸上で表彰されたときのものや……文武問わずいろいろなモノがある。 
  
 これも全て、幼い頃から両親の期待に必死に応え続けてきた結果……。 
  
 だけど──そこにポケモンに関わるモノは一つものなかった。 
  
  
 菜々「…………」 
  
  
 まるで私──ナカガワ・菜々という人間の歴史全てを物語っているような部屋だと思った。 
  
 幼い頃から、ナカガワ・菜々の生活の中には、驚くくらいにポケモンが存在していなかった。 
  
 スクールに入るまで、実際にポケモンを目にしたことがなかったし、そういうものがいる、くらいの認識しかしていなかったと言えば、その異常さがわかるかもしれない。 
  
 ほぼフィクションの存在。私にとっては全てのポケモンが伝説の存在のようなものだった。 
  
 ただ……この世界でそんなことが可能なのか? 今では、そう思う。 
  
 この世界では……至る所にポケモンが居る。それはもう、数えきれないくらいに。 
  
 そんな重度の箱入り娘を作り上げたのは、他でもない──両親の影響だったというのは言うまでもないだろう。 
  
 両親は父母二人揃って、ポケモンが苦手だと聞く。……特に父親は相当なポケモン嫌いらしく、母親が話題に出すことを忌避するくらいだ。 
  
 どうやら、父は小さい頃にポケモンに襲われたことがあるらしく……それ以来、ポケモンを毛嫌いしている節があるそうだ。 
  
 そんな家で育ったが故に……私は、酷くポケモンと遠ざけられて育ってしまった。 
  
 お陰で我が家ではポケモンの話をしたことは、一度もなかった。 
  
 そんな私がポケモンに興味を持ったのは──忘れもしない……3年前。 
  
 世に言うグレイブ団事変と言われる大事件でのこと。 
  
 街中にゴーストポケモンが大量発生し、ポケモンに耐性のない人が多いこのローズシティは大パニックに陥った。 
  
 それは私たちも例外ではなく……民家であろうが、お構いなしに壁をすり抜け侵入してくるゴーストポケモンから逃げる母親に手を引かれて、逃げ惑うことになった。 
  
  
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