32: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/15(月) 07:59:38.46 ID:Q62ZZ+a30
 ♦  
    
   あの盗賊は正しかった。  
    
   僕は、この目で見た。  
33: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/15(月) 08:00:56.21 ID:Q62ZZ+a30
   
  幸いにも多くの魔物は、その巨体のせいか俊敏とは言えない。 
  ならば壁を背に、地面を背に、魔物の攻撃を誘い、躱し、その間隙を打つだけだ。 
  それも、ひたすらに急所のみを狙って。 
  
34: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/15(月) 08:02:11.59 ID:Q62ZZ+a30
  
  正門は既に破られ、多くの魔物が門に殺到してきている。 
  当初、大通りには街の衛兵や騎士で構成された本隊が陣取り、僕を含む流民の即席戦士団は道の両脇、並ぶ建屋の路地に配置されていた。 
  魔物の勢いを正規兵が受け止め、その横っ腹を僕たちが突くという作戦だ。 
  
35: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/15(月) 08:02:50.41 ID:Q62ZZ+a30
  
  門を破った一つ目の巨人が、勢いそのままに僕の棍棒の何十倍もある丸太を振るったのだ。 
  その一薙ぎは、大通りを塞いでいた本隊前衛を文字通りひき潰してみせた。 
  魔物の前衛を食い止めるはずだった、その大半の兵を、一薙ぎで。 
  あまりの光景に、僕はごくりと唾を呑みこんだ。 
36:今日はここまで ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/15(月) 08:03:23.80 ID:Q62ZZ+a30
  
  十分に、魔物を引き入れてから鳴るはずだった突撃のラッパが響き渡る。 
  魔物の前進を止めることはできない。本隊の指揮官は、そう判断したのだろう。 
  もしかすると本隊を一度退かせるために、僕達を魔物にけしかけたのかもしれない。 
  
37: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/16(火) 20:59:24.80 ID:neaYQz3o0
 ♦ 
  
  あいつを倒せば、まだ本隊を建て直せるかもしれない。 
  淡い希望を胸に、僕は一つ目の巨人に向かって駆け出した。 
  
38: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/16(火) 21:00:19.35 ID:neaYQz3o0
  
  一つ目の巨人の大きな瞳が、天上に達した月を映し出している。 
  魔物の急所が、人間と同じとは限らないが人の形をしているのだ、潰れぬ目があるはずもない。 
  しかし、巨人の背丈は建屋の屋根程もある。 
  明らかな弱点ではあるが、あの大きな目玉に僕の棍棒は届かない。 
39: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/16(火) 21:00:55.57 ID:neaYQz3o0
 ♦ 
  
  剣の扱いは、父上にならった。 
  農閑期、日がな一日木刀を振り続け手の豆を潰す日もあった。 
  父上は、暮らしの助けとなるとは思えない知識や技術を僕に厳しく仕込んだ。 
40: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/16(火) 21:01:24.47 ID:neaYQz3o0
  
  それらは、麦を刈り森と共に生きる一介の農民には不要なものだ。  
  僕と父の関係も、農家の親子というよりは師と弟子に近いものだった。 
  それもあってか僕の家は、村の中でもかなり浮いた存在だったように思う。 
  父上は、他の家と交わることを避けていたし、それどころか父上の村人との接し方はどこか尊大に見えることすらあった。 
41: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/16(火) 21:02:04.53 ID:neaYQz3o0
  
  母はしばらくためらったが、遂に白状した。 
  曰く、父はアコレードを受けるほどの名家の出自であった。 
  だが、その後どういう経緯で、この村にたどり着いたかまでは終ぞ教えてくれなかった。 
  
42: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/16(火) 21:02:47.40 ID:neaYQz3o0
  
  夕食時、家のドアがドンと大きく叩かれた。 
  戸口にたった母が、ドアを開ける。立っていたのは、灰色の肌で猪の頭を持った悪魔。 
  僕は、それが何者なのかを知っていた。父の蔵書、古き英雄誌に出てくるカインの末裔オークだ。 
   
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