69: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:33:33.81 ID:aGyuAlWz0
  
  世に「正しさ」などはない。 
  その果てに残されるのは、屍と死体漁りだけ。 
  
  この世界に救いはない。 
70:今日はここまで ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:34:53.68 ID:aGyuAlWz0
  
  僕は、「正しく」ありたかっただけで「正しく」などなかった。 
  そして、それすらも無意味であることを僕は知ってしまった。 
  
  だから、父の剣はもう必要ない。 
71: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 08:14:31.26 ID:TtxL8s290
 ♦ 
  
 「こんなに絢爛な食卓は、我が一族始まって以来だな料理長」 
  
  厨房に溢れかえる料理人と食材をかき分け、御屋形様は私のもとまでやってきてそう言った。 
72: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 08:15:06.17 ID:TtxL8s290
  
  当初こそ、戦を前に男たちによりよい飯を食わせたいという御屋形様の心遣いかと思ったが。 
  それにしても度が過ぎている。とてもこの街の者だけで食べつくせる量ではない。 
  街中から食材を集め、いったい御屋形様は何を考えておられるのか。 
  
73: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 08:15:33.56 ID:TtxL8s290
  
  話と言うのは、戦のことだ。人手が足りぬのは厨房に限ったことでは無いようで。 
  先ほど、防壁の中に居る全ての男たちへ召集がかかったのだ。 
  だが、私は決して戦に出るのを恐れているわけでは無い。 
  男に生まれた以上、戦いに赴くのは義務だ。誉だ。 
74: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 08:16:04.36 ID:TtxL8s290
  
 「ならぬ」 
  
  御屋形様の揺るぎない言葉に、私は諦念の息を吐いた。 
  足らぬのは戦士だけではなく、その武具の数にもあった。 
75: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 08:16:33.54 ID:TtxL8s290
  
  我儘を言っている自覚はある。だが、どうしても自身の中で折り合いがつかないのだ。 
  私の言葉に、御屋形様はしばし目を閉じ思案を巡らせている様子であった。 
  
 「見知らぬ誰かで無ければよいのだな。ならばそれは私が振るおう」 
76:今日はここまで ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 08:17:06.09 ID:TtxL8s290
  
  御屋形様は、腰に差された剣をスッと抜き柄を私の面前に突き出した。 
  美しい刀身には、戸惑う私の膨れた顔がきれいに映し出されている。 
  
 「我が家の宝剣だ。ちゃんと返せよ」 
77:続けます ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 09:12:18.56 ID:TtxL8s290
 ♦ 
   
  僅かな時間、眠ってしまっていたようだ。 
  いつの間にか、夜が明け朝を迎えていた。 
  
78: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 09:13:06.73 ID:TtxL8s290
  
  安物の剣が、一本買えるかどうかの金額だ。  
  しかし、これ以上は望めまい。 
  
 「女子供は北の集落に逃した。お前の妹もいるやもしれん」 
79: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/18(木) 09:13:33.80 ID:TtxL8s290
  
 「生き残りを探す。毒のことを、皆に伝えねばならんしな」 
  
  嘘だ。 
  もはや、そんな余力はない。 
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