15:名無しNIPPER
2025/07/31(木) 00:37:44.14 ID:r9ema6LhO
「で、僕は決めた。君を待つ。アイドルとして輝いたあと、どうやって音楽に関わるか決まるまで」
「!」
「業界を一度見るといい。成功するのはそう難しい話じゃないし、橘さんはまだまだ若い。どう音楽に関わるかを決めるのは、今じゃなくていいんじゃないかな?」
「でも……急がないと。私に才能なんてありませんし」
行き場所を失った目線が波のように揺れる。20センチの空白が、まるでバルコニーと地上の間のように思える。ロミオ役にしては醜すぎるな、だなんて益体もない考えが脳裏をよぎった。こんな時ですら俺は現実から目を逸らしてしまう。忌々しい理想論者!
「急ぐ必要は無いよ。どうか自分が才能がない、だなんて思わないでくれ」
「!」
「ご家族は才能のことを色々言うかもしれない。でもそれは違う。少なくとも君の才能は本物だ。大きなプロダクションで何十人とアイドルを見てきた僕が保証する」
酷い魔法使いだとは思う。呪いをかけたような気さえする。終わりまで示したのだ。3人の魔女よりよっぽど歪んだ生き物だろう。苦労も苦悩も2倍で済めばよいのだが。
橘さんはくすりと笑った。小さくて、可憐で、吹けば飛びそうで、それでいて誰かを救えるほどに強い笑顔だった。
「……待ってて、下さいね?」
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