14:名無しNIPPER
2025/07/31(木) 00:35:48.51 ID:r9ema6LhO
「……歌に関わる仕事に就きたいんです」
「いい夢だね。理由を聞いてもいい?」
「歌には力があります。誰かを勇気づけたり、楽しくさせたりする力が。だから、私もそうなりたいんです。なりたいんですけど……」
輝いていた声がしぼんだ。彼女の家族のことだ、そうやすやすと認めはしないはずだ。
だが、帰ってきたのは俺の予想とは少し違った答えだった。
「……それを仕事に出来る自信がなくて」
「仕事に、か……」
とても真面目で現実的な子だ。きっと親をその線で説得しようと思いーそして失敗したのだろう。確かにこの業界で才能があると言われながら花開かなかった人間などごまんといる。少しでも関わった人間なら知っている話だ。そういう人材は小さな事務所にこそ多かった、ということも。
「ま、確かに小さな事務所やったら才能のある子に全てを賭けて失敗することも多いね。それに、アイドルだけでずっと生活するのはとても難しい。才能ある子でもって25年……そうならない子のほうが圧倒的に多い」
「っ……」
空気が澱む感覚。悲しみをためた目。俺の理想のために彼女の理想を壊す自覚。ああ。
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