110:1[sage]
2010/07/12(月) 01:10:11.01 ID:k/jVEt.o
――
天頂にのぼった満月は、少しばかり欠けている。
その月形が熱気でわずかに揺らめいた。
「……やっとここまで着いたか」
ダルクとその使い魔は、温泉を有する火山地帯――バーニングブラッドのふもとに到着していた。
近々感じていた火山特有の微振動も、はっきり足裏に響くようになった。
歩いてみるとなかなか遠い距離だったが、湯にさえ浸かればこれまでの疲労もすぐに癒えることだろう。
ここに至るまでの林道で何度か人外のモンスターに遭遇したが、闇に溶け込んだダルクに気付くほどの手合いではなかった。
もっとも、いきなり無差別に襲い掛かかってくるほど血の気の多いモンスター達が、この近辺を徘徊しているとも考えたくなかったが。
外の世界では何が起こるか分からない。
周囲には常に細心の注意を。肝に銘じていることだ。ダルクに死角はない。
「ディー、風呂までもうちょっとだ」
使い魔を従え、夜の山道を登り始める。
飾り気もなにもあったもんじゃない、目に映る全てが殺風景な火岩帯だ。
そこのボロの立て札には、矢印とともにかすれた字で「この先 温泉」とあった。
昔の記憶をたどれば、まだ結構山を登らなければならない。
が、その努力に報いるだけのものが待っていることも分かっていた。
「はぁ……はぁ……」
自前の杖で地面を突きながら、一歩一歩土を踏みならしていく。
その顔はすでに汗だく。
コートも早くから脱ぎ放ち、腰に巻きつけている。
黒シャツ姿で汗を流しているダルクの姿は、さながらかけだし大工のよう。
まさかウィンは、あの身体でこのキツい傾斜地を往復したというのか。
いや、おそらく彼女は風霊を御してラクラク飛んで行ったのだ。
嗚呼うらやましい。いまなら風霊使いに転向してもいい。
「はっ……はっ……」
ウィンも外にいたときくしゃみをしていたように、この時節、夜はとことん冷える。
はずだが、いまはそんな世俗の常識を突き破った場所にいる。
ダルクの足元地中深くには、グツグツに煮えたぎったマグマがうごめいているのだ。
必然地表の気温も、まるで熱帯夜のようにじっとり蒸してくる。
「もう……すぐだ……頑張れディー……」
ちなみに使い魔のディーは先ほどからダルクの肩に乗りっぱなしで、別に頑張ってはいない。
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