過去ログ - 闇霊使いダルク「恋人か……」
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297:1[sage saga]
2011/01/08(土) 02:49:23.98 ID:m4YeYXQo
 ――ダルクは慎重に杖をつきながらガケの細道をまたいでいた。
 いや慎重というより意気消沈した足取りで、の方が正しいだろう。
 使い魔も空気を読んでいるのか、みだりに飛び回ったりせずに大人しく主人の肩に止まっている。

 大量の汗を吸ったはずのダルクの衣服は、まるで洗濯したばかりのように清潔になっていた。
 壺の文様の魔力による自動洗浄効果! これこそ魔人の壺の真骨頂だった。万能陶器、恐るべし。
 しかし風呂を上がって弾ける勢いで着替えた当時、そんなことに気を回す余裕もなかった。
 一刻も早くこの場を離れなければ、息するヒマも惜しんで逃げなければ。
 事態はきわめて深刻だった。

「ああ……なんてことだ……」

 あの火霊使いがよもやの――女の子だったとは。
 いや、正確には途中から悟ってはいた。
 あの凛としていながらも、妙に柔らかさを残した顔立ち。
 苛烈な印象を与えつつも、妙に幼さを残した高めの声。
 そして火霊使いという肩書きとは裏腹に、妙に細身で白を基調とした体躯――
 てことは。
 最初に真正面から向かい合ったとき、湯煙に隠れていた彼女の身体は一糸さえ纏っておらず――。
 
「うああああ」
 
 なんてことだ。なんてことだ。
 自分は何も知らずに。
 何も知らずに彼女の身体を見て、風呂に入り、あげく自己紹介まで!

 悶える。身をよじる。足取りがふらつく。ガケから落ちそうになって慌てて岩壁に寄りかかる。
 使い魔の一つ目コウモリ、ディーが慰めるように頭に乗る。しかし慰めにもならずむしろ余計重い。
 
「と、とにかく……謝らなければ……」 
 
 そう、一番に自分が望むこと。すべきこと。今度は行動に移さねばならない。
 たとえ望み薄でも、面と向かい合っての謝罪で、あの計り知れない非礼を容赦してもらおう……。
 
 ダルクにはエリアの件があった。
 眠っていた彼女をベッドに運んだ際、最悪のタイミングで彼女が目覚めてしまったときのやりとり。
 あのとき自分はただ逃げてしまった。その誤解はまだ解かれずにいる。
 この胸に沈んだモヤモヤは、決して時間が解決してくれたりはしない。
 いくら自分の中だけで申し訳ない気持ちを積もらせても、何の役にも立ちはしないのだ。

 要するにけじめが必要だった。
 エリアの件でそれを知った。二度も同じ轍を踏むわけにはいかない。
 間を空けず謝ろう。いますぐ謝ろう。
 バーニングブラッドなどそうそう訪れる場所でもない。この機を逃せば当分、後腐れも残ったままだ。

「うん……やっぱり戻ろう……」

 使い魔は「えっ」と驚いたように一つ目をしばたたかせる。
 火の粉が及んだディーには悪いが、主人も辛いのだ。分かってくれ。
 ダルクはゆっくりときびすを返し、重い足取りで謝罪の言葉を考え始めた――。



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