551:1[sage saga]
2011/06/08(水) 15:54:17.47 ID:llwMLC1Eo
アウス陣営で熾烈な乱戦が繰り広げられた。
ダルクは『エルフの剣士』や『砦を守る翼竜』を矢継ぎ早に突入させ、真正面からというよりは搦め手から、多角的な動きで攻撃をしかけていく。
対してアウスは『岩石の巨兵』や『ホーリー・エルフ』でうんざりするほど頑丈に本拠地を守り、アテムへのダイレクトアタックを一発たりとも許さない。
攻めるダルク。守るアウス。
やがて長考したこともあって、先にアウスの砂時計がこぼれきった。
残り時間のストックを失ったアウスは、これからは一手30秒以内での着手を強いられる。
その後まもなく早打ちだったダルクの方も次第にペースが落ちていき、気がつけば時間に追われる展開となっていた。
難解な局面。一手一手が綱渡りで、フル回転で先々を読んでも小刻みに持ち時間を使わざるをえない。
そんな中しかし二人ともただの一度もミスをせず、ターンごとにほぼ最善の一手を繋いでいった。
「はぁい、レッポのバニラよ」
やがてエルフのお姉さんが飲み物を配膳してきた。
アウスの隣に、しゃれたグラスに満たされたおいしそうな薄赤のドリンクがコトンと置かれる。
ダルクは後から知ったがこのバーは前料金制で、席料にすでにワンドリンクが含まれているとのことだった。
「ボクにはこれ、レッド・ポーションのノーマル。サービスだから許してね」
ダルクの手元にもグラスが置かれる。
ウィンが言っていた、外の世界でメジャーだという飲み物だ。
闇の世界でメジャーなブルー・ポーションとの味の違いは、さていかがなものか。
しかし今はゲームの一番いいところだった。
盤上の世界に入り込んでいた二人はお姉さんに会釈こそしたものの、今それどころではないといった空気をにじませていた。
仕事柄そういう場面に慣れていたお姉さんは、「ふふっ。お邪魔したわね」と呟いてテーブルを離れていった。
「……」
駒がすべる音、打たれる音。
傍目で見るより、数十倍もの熱い戦いが着々と進行していく。
二人とも一言も発することなく、限られた時間制限の中で上級レベルの攻防を交わしていた。
局勢はほんのわずかにダルクが有利だが、アウスも一切隙をみせないのでいくらでも巻き返す余地がある。
互いに一手気の緩んだ手を打ってしまえばそれで勝敗が決してしまう。もはやゲームはそんな段階だった。
脇に置かれたグラスはまったく手をつけられることなく、天井の明かりを鈍く照り返していた。
グラスの表面の水滴がふくらむ。
かたまりとなって落ちる。
テーブルを湿らせる。
それがじんわり広がっていく――。
「――!!」
突然だった。
アウスがいきなり荒々しく自分の杖を立て、それに耳を当てた。
何事かと顔を上げるダルク。何事だ。分からない。ただならぬ空気しか。
「……間違いありませんね?」
今までのゲームで積み上げてきた緊張感をあっけなく破る一声。
それだけ事が深刻ということ。のしかかるように別の緊張感が生まれる。
アウスの言葉はダルクに呼びかけた訳ではなさそうだった。
その様子では、杖を使って誰かと通信している? 誰と?
アウスは直後、瞬発的に顔を上げた。
その眼はダルクではなく、もっと後方に向けられている。
つられてダルクも首を逸らす。アウスの視線の先にいるのは……この店のマスター?
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