過去ログ - 闇霊使いダルク「恋人か……」
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552:1[sage saga]
2011/06/08(水) 15:59:28.34 ID:llwMLC1Eo
 マスターはなぜかこちらを見ていて、サッと短く頷いたところだった。

「皆さん、お金を仕舞ってください! ガサが入ります! 急いでお金を仕舞ってください!!」

 マスターのダンディズムなバリトンは、広い店内に端から端まで響き渡った。
 突然の警告を受けた客たちは、慌ててごちゃごちゃとDP(デュエルポイント)紙幣とコインを片付け始めた。
 焦燥する者、事態が飲み込めない者、中にはグラスを落としたものもいて、店の中は騒然となった。

「誰がタレこみやがった!」
「あいつだ、仕立て屋に騙されたとか言ってた赤服のヤツ!」
「ヤロー負けた腹いせにチクリやがったんだ! 今度見たらぶっ飛ばしてやる!!」

 店内に飛び交った叫び声を聞き、ダルクは最初にこの店に入ったときのことを思い出す。
 あのとき、金髪の男が「覚えてやがれっ!」と悪態をついてこの店から出ていった。確か赤い服だった。
 だがそれがこの騒ぎとどう関係しているのか、まだダルクにははっきりしない。
 
「勝負は中断です。残念ながら」
 
 ダルクが向き直ると、やや険しそうに眉をひそめたアウスの憂い顔があった。
 
「これは何だ? 『ガサが入る』って?」
「詳しい説明は後で。まずはその杖を隠してください」

 やはり緊急事態のようだ。ダルクはすぐさま杖をコートの内側に隠した。
 柄の部分がはみ出してしまうが、頭さえ隠してしまえばすぐには杖だと分からないだろう。
 ちなみに異変に気づいたのか、懐のディーも目を覚ましたようだ。静かなスタンバイが心強い。

「これからこのバーに治安維持隊が入ってきます」 

 アウスの口調は若干速く、わずかな焦燥が感じられた。

「あなたは一切しゃべらず、じっとしていてください。
 治安維持隊とマスターとのやりとりが一段落ついたら、私の合図で一緒に店を出ましょう」
「……オレが『闇』であることがまずいのか?」
「ええ。ただでさえそうですが、特に今は『上』の組織の成員が派遣されている時期なんです」
「上?」
「天使族です。定期的にこの町の秩序を把握し、また保つため、『上』の組織が天使を派遣して町に滞在させるのです」
「天使族ってそれはまずい、『闇』と真っ向から対立する種族じゃないか」
「連行されれば理不尽な『裁き』を受けることになります。くれぐれも目立たないように」
「もちろんだ」
 
 ダルクは自分の席から、未だざわつきの収まらないホールを見渡した。
 案の定地下なのでどこにも窓はなく、出入り口は自分が入ってきた一ヶ所だけ。
 もしかしたらカウンターの奥に外へ続く階段があるかもしれないが、ここからでは遠すぎる。
 やはり万が一のことが起こったとしても逃げられそうにない……今日は何の因果か不運が重なっているようだ。

「……成り行きしだいでは、うやむやに別れることになるかもしれませんね」
「そうだな」

 できればチェスの決着をつけたかったが、この続きは次回に持ち越しだ。
 それどころか、ことによればもう会えないかもしれない。世の中は一期一会。
 そう思うと、湧き上がった本音が自然に口をついた。

「……それなら先に礼を言っておくよ。アウス、今日はありがとう。楽しかった」
「えっ? わ、私は――」



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