631:1[sage saga]
2011/08/24(水) 16:11:22.40 ID:BRARFUX8o
ジェインは不適な笑みを浮かべながら、「あっ」とこぼした声の主を見下ろした。
「君のものかい?」
「あ……う……」
叶うならシラを切りたいアイルの小剣士だったが、よりによって500DP硬貨。
さすがに共通硬貨の中で一番価値のあるコインを前に、首を横には振れなかった。
「オ、オイラのです……」
「そうか」
ジェインは心なしか満足げに笑みを広げた。
わざとらしく、緩慢とした動きでコインがテーブルの上に置かれる。
「大事なものだろう。気をつけたまえよ」
「は、はい……ありがとうございます……」
酒場内の空気は依然にも増して緊迫した。
客の誰もがどうなることかと、不安げに先行きを案じていた。
そんな最中、ジェインは一転、「さて!」と強めの声をあげた。
「撤収だ」
その意味が周囲に理解されるより早く、ジェインは治安維持の兵達に言った。
「今回の件に関しては、賭博の証拠は見つからなかった。ならば撤収だ」
「……は……」
「聞こえなかったのかな? それとも二度三度言わせる気かな?」
「はっ!」
「ははっ!」
やにわにドタバタと騒がしくなり、治安維持の兵たちは先を争うように酒場を後にしていった。
それに伴い、ホール内の客たちはほっとしたような安堵の空気に包まれた。
とにかく誰も咎められず、店も何の処分も受けずに済んだ。万々歳だ。
完全に弛緩するホール内。再開されるデュエルモンスターズ・チェス。各テーブルに戻っていく勝負熱。
しかしダルクとアウスは、まだこの場に留まっているジェインの方へ注意を向けていた。
「ああそうだ。番兵の君」
「はっ」
「この店を通報した例の男は、まだ留置しているね」
「はっ」
「彼は酒気を帯びていた。酔いに任せ虚偽の通報をした罪において、相応の処分を下すように」
「はっ! 了解しました!」
最後の治安維持兵である、強引な番兵が出て行くのを見届けるジェイン。
なぜかライトロードの四人はここに留まったままだ。
「マスター」
「まだ何か」
「どんな小細工かは分からないが、我々の来訪を察知できる術があったようだね」
「心外な言いがかりですな」
「いや。ただ我々もその気になれば、『過去に起きた真実』を改めることもできる、ということを伝えたかったまでさ」
「さて。そのような大層な手段、一介のバーの賭博容疑などに、おいそれと使えるものですかな」
「ライトロードの権限をもってすれば、あるいはね」
「留意しておきましょう」
ホール内が騒がしさを取り戻したおかげで、その対話はダルクには聞き取りづらかった。
しかし先刻となんら変わらない振る舞いから、双方の空気は未だ穏やかではないことだけは感じ取れた。
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