26:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 05:47:58.57 ID:PWoHFWY0
「いただきます」
今日の夕食(火星に朝、昼、夜があるのかはよく判らないが)は御飯に豆腐のお味噌汁、里芋の味噌和えに金平ごぼう、といった紛う事なき和食の献立だった。火星基地(ここ)での食事は和食が多かった。リシティアの乗組員(クルー)約百三十人の内の大半は日本人(私や曽我部先輩の様な選抜トレーサー組みは百人全員)だからかな。そして、トレーサー乗り百人は全員女性だった。
27:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 05:51:02.89 ID:PWoHFWY0
「うん、やっぱりここの野菜はおいしいわね、最初、純火星産で水耕栽培って聞いてどうかと思ったけど、やっぱり技術の進歩って凄いわね。もしかしたら有機野菜より美味しいかもしれない」
里芋を箸でつまみながら、曽我部先輩は感嘆の声を上げる。
確かに食事はおいしかった。でもお菓子やデザートの類はあるにはあるのだが、正直に言ってそんなに美味しくは感じられなかった。やっぱりお菓子に関しては軽音部で食べていた、ムギの持って来るお菓子に舌が慣れてしまったのだろうか。ふとムギのお菓子が食べたくなると同時に、あのほんわかした雰囲気の少女の顔を思い出す。とは言ってもちょくちょくメールのやり取りをしているのだが、彼女たちと会えない時間と距離が私を少し感傷的にさせた。
28:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 05:55:37.80 ID:PWoHFWY0
「秋山さんそれで訓練の方はどう?中々調子がいいみたいに見えたけど。三回中二回も命中させていたみたいだし」
「・・・あっ、はいそうですね」
ぼうっとムギたちの事を思い出していたところに声を掛けられた私は、はっとなって取り合えず相槌を打った。
29:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 05:59:34.02 ID:PWoHFWY0
「そう、秋山さんがそういうならしょうがないわね。ところで大好きな聡君とはどうなの?ちゃんと連絡(メール)し合ってる?」
「えっ?・・・あの、その・・・まぁ、それなり、には・・・///」
不意に聡の話題を振られて(不意でなかったとしても)私はしどろもどろになってしまい最後の方は消え入りそうな声になってしまった。
30:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 06:01:02.50 ID:PWoHFWY0
「でも、秋山さんに彼氏かぁ・・・聡君て確か軽音部の田井中さんの弟さんなのよね。でも、桜高のアイドル秋山澪ちゃんを彼女に出来るなんて、一体どんな子なのかしら」
「アイドルって・・・なに訳の分からない事を言ってるんですか。そ、それに聡は彼氏と言っても弟みたいなものです。ただ、優しくて、私の事を慕ってくれて、時々カッコ良いと思える時がある位で・・・」
「あらあらそうなの。御馳走さま。・・・ふふ、やっぱりいい人みたいね。大事にされてるのね」
31:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 06:03:06.53 ID:PWoHFWY0
「わ、私の事より先輩はどうなんですか?今はいないにしても先輩なら彼氏くらい直ぐに見つかりそうなのに」
「そんな事ないわよ。まあ、チャンスがあるとしたらこの火星基地での訓練期間位だし、ここを出たら他に中継基地があるにせよ殆んどがリシティア内での生活になる。リシティアの男性クルーは殆んどが私達の倍以上の歳の人ばかりだし、他の艦もそう。それに私達、選抜トレーサー組はこの艦ばかりか、全艦女性ばかりで男性の訓練生は一人もいないって話よ。トレーサーを操縦する資質の他に何かの意図があるのかもしれないけど、正直に言ってあまり良い事は思いつかないわね」
先輩の表情が少し曇った感じになる。やっぱりこの人でも分からない事や不安になる事があるのだろうか。と言うか話が微妙にすり替わった気もしたけどこの際その方が都合が良かった。
32:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 06:08:50.88 ID:PWoHFWY0
今から八年前、有人火星探検隊が偶然発見した『タルシス遺跡』。そこには何者かが生活をしていたであろう都市の様な建造物、そこで生活していたと思われる大・小タルシアンの化石の様なものが発見された。
それは正に地球外知的生命体の存在が実証された事であり、世界は大騒ぎになった。そして、すぐさま遺跡の脇にベースキャンプが設けられ調査を開始。その後、第一次文明調査団が組織され、火星に派遣された。しかし、調査団による本格的調査が開始された数日後、様相が一変してしまう。遺跡の半分以上とベースキャンプが丸ごと消滅してしまったのだ。
33:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 06:11:36.53 ID:PWoHFWY0
「あの後、一度もタルシアンに遭遇してないですよね」
「そうね。少なくともそんなニュースは無いわね」
「だとすると、タルシアン側は地球を侵略する気が無い様に思えますけど、それならどうしてタルシアン・ショックなどと言う破壊行動をしたのでしょうか?」
34:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 06:13:44.33 ID:PWoHFWY0
「もういいなら、そろそろ行きましょうか?」
「あ、はい。あまり食堂に長居するのもなんですし」
「あ、そうそう、今やってる集中訓練が終わったら、火星観光に連れて行ってくれるそうよ。その中に勿論、タルシス遺跡も入っているから、実際に見て色々考えてみるのも良いと思うわ」
35:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 06:15:31.16 ID:PWoHFWY0
自室に戻り明日の支度を済ませると、私はトレーナーからパジャマに着替え、ベッドに腰掛けると早速、両親や律達にメールを送る。
入隊した当初は、軍隊(?)に配属される訳だから知り合いはおろか家族にさえも連絡が出来ないのかと思っていたのだけど、連絡が出来なかったのは入隊から月に到着してオリエンテーションが終わるまでの最初の数日間だけで、それからは通話や画像を送る事は(ネットも)禁止だったけど、携帯でのメールの送受信は自由だった。この状況下でメールが出来るのと出来ないのでは全然違っていた。特に入隊当初の事を考えると、もしメールも出来なかったら、私は今ここにはいないのかもしれない(それが良いか悪いかは別として・・・)。
36:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 06:18:38.47 ID:PWoHFWY0
「あとは、聡かな・・・」
私は呟くと、今日の訓練の内容とか、食事の事等、思い付いた事を打ち込んで送信する。
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