153:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2011/01/29(土) 20:19:56.10 ID:Vac5WSOJo
「どうして気付いた?」
呟くように投げかけられた問い。私は視線をそのままに同じように返す。
「この間の電話。繋がったままだったの」
正直に答えた。
「あちゃ……そりゃあつまんねーミスしたもんだな」
口調は軽く、顔も笑っているけれど、その笑顔がとても悲しそうに見えてしまう。
あの時、アイツが誰と会話していたのかは知らない。
会話の内容もいまいち理解できなかったし、そもそもなんでアイツがあんな場所にいたのかも分からない。
でもたった一つだけ、私にも理解できる事があった。
記憶喪失。
アイツは過去の記憶を失っている。
漫画やドラマの中で、架空の物語の内でしか知らなかったそれがすぐ身近にあった。
どうやら実在するらしいって事は知ってたけどにわかには信じがたい事実だった。
だってそれはその人の過去を全否定されているようなもので、今まで生きてきた証を失う事と同じだ。
両親の顔も知らず、友達の声も分からず、自分の名前すらも覚えていない。
喪失の程度はよく分からなかったけど、私は直感的に『全部』を失ったのだと確信していた。
それがどれほどのものなのか――私には想像もつかない。
何も知らず、何も分からない。
唯一味方だろう自分すらも不確かで、そんな状況で一体何を信じていいのか。
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