42:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]
2011/01/09(日) 15:12:39.94 ID:ebftp9go
私の答えに満足げに笑い、アイツは空いた左手でドアの開閉パネルを押した。
小さなモーター音と共にドアが横滑りに開く。そして私はアイツに手を引かれ、店の中に初めて足を踏み入れた。
ふわりと風。空調によって適温に調整された暖かい空気に乗ってかすかな獣臭が鼻腔に届く。
この臭いを嗅いだのはいつ以来だろう。もしかしたら……そう、ずっと昔、この街にくる前かもしれない。
不思議と不快には思わなかった。むしろ懐かしいとさえ思えてしまう。
店員の声。けれど私の耳には届いていなかった。
「……」
今、私の眼下には小さな生き物がいて、つぶらな瞳でこちらを見上げている。
先ほど私が窓越しに見ていたあの三毛の子猫だ。
私たちの動きを追ってきたのだろうか。海をそのまま閉じ込めたような美しい青を湛えた瞳をじっと私に向けていた。
どうしてそんな顔をしてるの、と私に問いかけるように。
言葉を失ったままの私を見てアイツは小さく、ふ、と息を吐き視線を店の奥へと投げる。
「あのー」
こちらに柔和な笑みを向けている店員のおにーさんにアイツは声をかけ、とんでもない事を言いやがった。
「触ってもいいですか?」
その言葉が一瞬何を意味しているのか分からなかった。
驚いて私が振り向くのとアイツがこちらに向き直るのとは同時だった。
視線が合う。手を繋いだままの、ともすれば吐息さえ感じられるような至近距離。
思わずたじろぎそうになるが、アイツはやっぱりそんな事はまったく気にせず、まるで自分の事のように嬉しそうに私に言うのだった。
「いいってさ」
……え?
触るって、この子を? 私が?
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