6: ◆RLqqTM6o/csr[sage]
2011/01/23(日) 17:15:35.71 ID:ltIw3edqo
「ういー、ういー」
純が自分の名前を呼んでいるのが、ずっと遠くでのことに感じられた。
憂は目を細めて、外の光景を見つめた。
蝉はどこにいる? 人工物の中で、一生懸命に鳴き続ける蝉は。
蝉の声はずっと聞こえていた、けれど、蝉は見つからなかった。
「ういってば……もう」
純がごろごろと、起き上がること無く移動していく。
彼女が転がっていた床は、体温と日光とで少し暖かくなっていて、憂はほっとした。
自分の太ももは、掌は、まだ温かくて、憂はほっとした。
ここだ。ここにいた。
後ろで電子音が聞こえた。
クーラーが悔しそうに、最後に大きく息を吐いて、動きを止めた。
憂が振り向いてみると、安心したように大の字に床に寝そべる純の姿が見えた。
「ふう。やっぱこんなに寒いのは駄目だよ。風情が無いもんねえ」
憂は彼女の言葉を聞いて、また外を眺めた。
歩道の脇には木があった、建物には日が当たっていた。
蝉は見えないけれど、やはり声は聞こえている。
103Res/68.21 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。