過去ログ - 一方通行「いい子にしてたかァ?」
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936: ◆d85emWeMgI[saga]
2011/03/10(木) 21:40:09.15 ID:URvLCU7D0
膝に頭を乗せ、可愛らしい寝息を立てている愛娘に美琴は柔らかい視線を落とす。
長い睫が、俯いた美琴の白い頬に影となって降りる。
健康的な肌と、淡い睫の作る影のコントラストが、22歳という年齢以上の色気を醸し出す。
それは、扇情的であるとか、造詣が美しく艶かしいという形容詞で括られる美しさではない。
美琴自身が美しいのではなく、幼く無垢な寝顔を浮かべる想と、少女を膝枕して、髪をゆっくりと撫でる美琴の二人が揃っているその光景そのものが美しいのだ。
絵画の一枚のような、宗教画を前にして誰しもが抱くような安心感と何処か泣きたくなるような優しさを秘めた美しさである。
世の母親とは皆こういうものなのだろうか。番外個体は隣りの座席から美琴の横顔を盗み見る。
彼女には母親は居ない。遺伝子上では御坂美鈴であるのが、実感が伴わない。
美琴とは反対側、自分の隣で、自分の肩に頭を預けて眠る打ち止めに目を向ける。
だらしない、無防備な寝顔は想にそっくりだ。いや、想がそっくりなのだろう。
遺伝子の上で言えば、番外個体も打ち止めも想の母親という事になる。
そんな経験などないというのに母親というのは何ともややこしい。
打ち止めのように幼い頃に接することが出来ていれば或いは、無邪気に「お母さん」と呼べるようになっていたのかもしれない。
(ま、お母さんなんて甘えるミサカなんて想像するだけでゾッとするんだけどさ)
唇を微かに歪める。
震動でずり落ちそうになる打ち止めの頭をさりげなく支え直してやる。
こういうさり気無い気遣いが出来るようになった自分自身が何故か可笑しさを覚える。
負の感情しか受け取らないという処置を受けていたのは過去の話。
この数年間で繰り返された治療のおかげで常人と殆ど変わらぬようになっている。
それにも関わらず一方通行への口調のキツさはそもそもそういう性格なのかもしれない。
遺伝子元が遺伝子元なのだから、無理も無いのかもしれない。
現にあれほど素直であった打ち止めは、クチを開けば『ウザイ』『寄るな』『大嫌い』という単語の数々を一方通行に浴びせる。
それに膝を屈する程の衝撃を受けていた一方通行の姿は未だにMNWに保存され、年に一回行われる『ミサカ達が選ぶ名場面、珍場面特集』では必ずベスト20にランクインされ、上映される。
その度に番外個体は腹を抱えて笑い転げる。
最も、最近では番外個体の毒舌も打ち止めの暴言も『反抗期』というカテゴリーで一括りにして受け流す術を身に付けてしまったようだが。
(何一人だけ大人になりましたって面してるんだよ、クソ野郎。ミサカすっごく面白くないんだけど)
本当の不機嫌の理由は他にある。打ち止めの暴言にしても単なる思春期ではない。
要は面白くないのだ。
散々自分達にすべてを捧げるように、自分達だけを見ていた男の手が、いつの間にか他にも守るべき者を抱えていることに。
自分達を変わらず大切に思ってくれているのはわかる。しかし、男の優先順位に明らかな変動がもたらされていることもわかる。
オンリーワン、特等席。自分達の優越感すら抱いていた場所は何時しか自分達だけのものではなくなっていた。
同率順位が増えただけではなく、明らかに男の中の最優先順位が替わっているのだ。
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