過去ログ - 上条「精神感応性物質変換能力?」
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37:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2011/03/02(水) 01:59:12.49 ID:n9h629k6o
× × ×
全てが寝静まった病室。細く開いた扉から、少女の形をした影が滑り込む。微かな、しかし
確かな寝息を捉えて、安堵の長いため息が病室に広がった。音を立てぬよう、慎重な足取りで
ベッドに近づく。カーテン越しの淡い月光が、少女の姿を浮かび上がらせる。
「よかった……」
聞こえぬように、起こさぬように、小さく、小さく呟く。
小さな顔と、小さな手。ふたりは同じものを持っている。
ここに眠っているのは、この姉の妹。会ったばかりの妹。
誰にも代われない、代えることなど許されない、大事な――
薄雲を抜けた月光がベッドを白銀に染め、そして彼女は、眠る妹の手の中に、仄かな緑色の
輝きを見つけた。
――お姉さまから頂いた、初めてのプレゼントですから
「っ……ぅ……!」
きつく唇を噛み、こみ上げるものを押さえつける。いまの私に、涙を流す資格なんて、ない。
× × ×
「見舞いは済んだかい?」
病室の前、壁にもたれた影が呼びかける。
「……ッ!」
とっさに身構え、少女は暗がりを睨む。おぼろげな人影の中から、一つだけの凶暴な眼光が
彼女を睨み返した。
「助けた以上、責任があるからな。――お前が敵だったら、部屋には入れなかった」
「助け……? じゃあ、アンタがあの時の……!?」
「ん? ああ、お前もあそこにいたのか」
途端、少女は砕けんばかりに奥歯を噛み締める。内に向いたドス黒い怒りがマグマのごとく
噴き出し、渦巻き、胸の奥底を灼き尽くす。
「……間に合わなかった」
「どうした?」
「あの子が殺されようとしていたのに! 私の『超能力(レベル5)』は、『学園都市第三位』
の『能力(チカラ)』は届かなかった……!」
「おい」
「……『一方通行』。アンタがあの『最強』からあの子を――」
「おい!」
「私が! 私が、やらなきゃいけなかったのに――」
男の右手が少女の胸倉を掴み上げ、俯いた視線を引き寄せる。
「後ろを見てんじゃねえ!」
「……っ?」
「後悔を口に出すな!」
隻眼の放つ『凄み』が、挫けた心に灼熱を注ぎ込む。
「『弱い考え』をするのはいい、そいつに抗うことで強くなれる。だがな、そいつを口にしち
まったら弱さに囚われる! 弱さに負けちまう!」
前しか見ない男の信念が拳から迸り、少女の胸を貫く。
「ここは逃げていい場面じゃねえ! 諦める方向に進むな!」
「……ッ!」
「お前の意地を見せてみろ!」
少女を降ろし、決意を問う男。彼を見上げる少女の瞳は光を取り戻している。
「……そう、そうよね。あとになって涙を流すより、血を流しながら前に進む方がいい」
「ああ、そうだな。それがいい」
「あの馬鹿げた『計画』をブッ潰して、あの子たちを解放する。それだけでいい」
その調子だ、と言いかけた男がふと、怪訝な顔になる。
「あの子たち? まだいるのか」
「ええ、私の提供したDNAマップが転――」
「待て、そこまでだ」
「え……?」
「全然解らねえから通訳のいるところで聞こう。――こっちだ」
先に立って歩いていく男の背を見ながら、少女は少し不思議な気分になる。何が、と考えて
それが軽い既視感だと気づいた。呼ばれてないのに現れてお節介を焼き、『あり得ない』力で
道理を蹴っ飛ばす、暑苦しい語りが妙な説得力を持つこの男は、彼女のよく知る『あの男』に
どこか似ているのだ、と。
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