過去ログ - 上条「精神感応性物質変換能力?」
1- 20
48:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2011/03/06(日) 23:07:04.25 ID:/YtqN7c5o
 流電スポーツ人間工学開発センターを撃滅したカズマに合流地点を伝えると、黒煙を吐き出
す水穂機構・病理解析研究所に一瞥をくれ、美琴も移動を始めた。

 目標座標への方角を確かめ、その正面に建つビルに向けて走る。壁面を駆け上がり、屋上を
走り抜け、その縁を蹴って跳躍、信号機を足掛かりに道路を越え、目の前のマンションのベラ
ンダを掴み、身体を引き寄せると同時に手すりを蹴って浮上、二階上のベランダを叩いて隣家
の屋根に飛び移り、そして次の屋上へ、という一連の動作を流れるようにこなしていく。

 いわゆる『エクストリーム・スポーツ』の一つに、フランスを源流とし、世界中で競技人口
を増やしている『パルクール』と呼ばれるものがある。都市空間に存在するあらゆる物体を手
掛かり、足掛かりにして、己の肉体のみで目的地への再短距離を目指すという移動術だ。本来
は厳しい鍛練により力と技を備えた者だけが挑戦を許されるのだが、美琴の操る磁力の反発力
と吸引力、それに電磁波による空間把握は、その無謀を超越する。

 彼女がこれまで主に回避行動に使っていた『壁走り』の応用、発展系であるこの移動法――
仮に『超電磁パルクール』とでも呼称しようか――の利点は、まず能力の消費が抑えられるこ
とにある。磁力の吸引力を連続使用する『壁走り』とは異なり、跳躍の瞬間に反発力を、取り
つきの一瞬に吸引力をそれぞれ使用するだけでよく、効果に対するエネルギー効率が高いのだ。
そして普段は無意識に扱っている電磁波による空間把握を、常時変化する複雑な地形に対して
意図的に多用することは、精密度と練度の向上に繋がる。将来的には、生体電気の操作により
筋肉の反応速度を飛躍させ、不測の事態への対応が万全に到ることが望ましい。そしていずれ
は『超電磁空手』に開眼し、第一宇宙速度に達する右正拳を――

「……実践と経験が能力を進化させる、か。あの『樹形図の設計者(ガラクタ)』が算出したっ
てのは気に喰わないけど、ありがたく使わせて貰うわ。『第一位』に必要なのが二万通りなら、
『第三位』の私は五万でも十万でもいい。だけど決して無理だとは言わせない。その『誤算』
をぶち壊して、私はあの子たちを守る力を手に入れる」
 七人の『超能力者』の中で唯一人、『低能力者』から這い上がった美琴の『伸びしろ』は、
まだ尽きていない。彼女が現在まで『超能力』のカテゴリーに留まっていたのは、その上の存
在を知らなかったから、それだけだ。

「――そういやあの占い、二人とも当ったわね。誕生日は違うけど、運命は一つ、ってか」
 妹にせがまれて試した辻占い。双子なら、と渡された二人で一枚のプレートには、『窮地に
ありて道は開かれん』と刻まれている。美琴はポケットの中で揺れる金属質な感触を確かめ、
次の一歩を大きく踏み出した。

               ×    ×    ×

「ミサイルに隕石ねぇ……」
 現地へ向かうキャンピングカーの車内、若い女が通信用のモニターに半笑いの感想を述べる。
丈の短いワンピースで戦場に向かう神経がなければ、このチームのリーダーは勤まらない。
『聞いたまんまを言ってるだけよ! とにかく! 正体不明の圧倒的な攻撃を受けて研究施設
が爆発したってのだけは確かなんだから、気合い入れて迎撃しなさいよ!』
 たぶん顔を真っ赤にした彼女たちの上司、通称『謎の女』が説明にならない説明を気合いで
無理矢理〆る。通信が音声のみなのが残念だ。
「本当に隕石だったら超C級映画化決定ですよ。タイトルはアルマゲドン2で」
 いらぬところに喰いつく、最年少の悪食映画マニア。眠気は覚めたようだ。
「結局、ミサイルVSミサイルの戦いって訳よ。撃破ボーナスは私が頂くわ!」
 携行型対戦車ミサイルの弾頭にフェイスマークを描きながら、金髪が碧眼を欲に光らせる。
「……夢を、夢を見ていました……夢の中のあの人は……」
 何か別のモノを受信中の不思議少女は、夢の中のあの人を応援している。
『こいつらときたら! 真面目にやる気あるのかっつーの!』
「どうかなー?」
「超少しだけ」
「やっぱ私しかいない訳よ!」
「大丈夫だよ、なぞのひと。私はそんななぞのひとを応援してる」
 しかし上司の憤りは、いつものように空転する。
『言っておくけど、ちゃんと仕事しないと死ぬのはアンタらだっつーの!』
「はっ! 私を倒せる能力者なんている訳ないじゃないの」
「私の『窒素装甲』は、隕石より超頑丈なので問題ありません」
「結局、最後に生き残るのは私って訳よ!」
「大丈夫。私がきっと皆を守ってみせる」
 一糸乱れぬフラグ建立。チームワークとは斯くあるべしの見本である。
『あーもう、こいつらときたらーっ!』
 一対四の漫才で、一人のツッ込みが勝利するのは至難の技である。四人の変人を相手にした
『謎の女』の孤独な戦いは、今夜もまた、残念な結果に終わった。

               ×    ×    ×


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
202Res/279.72 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice