173:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage saga]
2011/05/11(水) 01:15:28.97 ID:39d3h1Aso
売人Aは放心状態の聡につかみかかり地面に組み伏せた。
売人B「てめぇ、どこの差し金だ」
聡「そんな……」
売人は聡の覆面を剥ぎ取る。
売人A「なんだ、ガキだぜ」
売人B「何が目的が。俺たちを殺してヤクを奪おうとしたのか?」
売人A「見ろよこいつ、人を殺したのは初めてみたいだぜ。たぶんカタギの、ただのガキだ」
売人B「ってことは。てめぇ、覆面かぶってヒーローごっこか」
聡「……」
売人B「最近多いんだよなぁ、こういう奴。タックマンとかいうヒーロー気取りの真似して、覆面かぶって自警団ごっこってな」
売人A「あのな、俺たち変異種なんだよ。素人が殺せるわきゃねーだろ」
売人B「クソガキ、てめぇ俺たちのことクズだって思ってんだろ。クズだから、悪だから、消えていいって。殺してもいいって」
聡「……そうだろ。その通りだろ。この街に、お前らなんかいらない」
売人B「そういう奴は決まってそういう。正義なんて幻想のために『他人を傷つけてもいい』と本気で思ってる。だがな、そう思ってるならあえて教えてやるよ。てめぇも俺たちと同じだ。同じどうしようもないクズで、しかもそれを自覚せず、他者を傷つけることで自分を美化しようとする。守ろうとする」
売人Bは聡の胸倉をつかみ、強引に立たせ、顔を近づけ、諭すように話しかける。
売人B「そうやってでしか生きられない人間もいる。俺だって自分がクズだってわかってんだよ。だが、そんな生き方しかできない。こんな世界に、こんな時代に生まれりゃ、そんなことであふれている。『こんなはずじゃなかった』って、誰もがつぶやいている。お前が悪人だって切り捨て、殺そうとした人間もだ。自分の罪の代償を背負いながら、傷つきながら、毎日生きてる」
聡「そんなの……わかってる。わかってるけど、お前と同じになりたくない。だから……!」
売人B「だからくだらん覆面を着け、強くなった気になって、俺たちを殺そうとして、俺たちを傷つけることで自分を許そうとしたのか? その結果を、見ろ!!」
売人Bは聡の顔をつかみ、無理やり倒れている男のほうに向ける。
聡がさっき刺殺した男。血だまりは広がり、もう息をしていない。
売人B「お前が傷つけた。お前が殺した! これで俺たちと全く同じ……いや、それ以上の『悪』ってわけだ。わかるよな」
聡「そんな……僕は、そんなつもりじゃ……!」
売人B「いいぜ、『俺は』許してやる。だからお前に選択する権利をやる」
売人Bは聡の包丁を拾い上げ、聡の手に持たせた。
売人B「お前が自分のしたことは正しかったと信じるなら、お前自身を殺せ。その包丁で腹を裂き、苦しみのた打ち回りながら死ね。それが当然の代償だ。そして、間違いだったと認めるなら、これ以上はなにもしない。さっさと家に帰れ。そしてくだらない幻想を再び持たないようにもっと賢く生きろ」
売人A「おいおい優しすぎんぞ、それでいいのかよ」
売人B「かまわん。さあ、クソガキ、選べよ。自分の生きる道は、自分で決めるもんだ」
聡「僕の……僕の選択に対する、代償……」
僕は、なんてことをしてしまったんだ。
何を、焦っていたんだ。
助けられなかったから。あの女の子に、拒絶されたから。
わかっていたはずなのに。こんなことには意味が無いって。虚勢だって。
間違ってるって。最初から、わかってた。自分は正義なんかじゃない。利己的で、弱くて。
自分というものを大きく見たくて。認められたくて。他人より上でいたくて。
そんな汚らしい欲望のために他人を利用しようとしていた。
この覆面で弱い自分を隠し、正義という高尚な言葉で貧弱な自分の生き方を補強し。
耳障りの良いただの言葉で自分を囲み、自分とその周りの世界を美化しようとする。
どこにでもいる『善人』の一人にすぎない。
善人という名の、真の役立たず。
どんな人間にも悪があるのに、それを認めず、自らを善人と思い込み続ける愚かな人間。
その有象無象の中の一つのかけらが僕自身で、それは誰にでもすぐわかることで。
悪に立ち向かう特別な存在にはなれなくて。
そんな力もなければ、そんな生き方を選ぶ勇気もない。
それに気づいてしまった。気づいてしまったんだ。
自分自身の真実を、知ってしまった。なら、そこに希望は無い。絶望しかない。
自分の未来にも、過去にも、なにもないって、価値はないって、気づいてしまったから。
希望なんて無い。
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