過去ログ - 紬「タックマン?」
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96:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)[sage saga]
2011/03/22(火) 05:31:04.75 ID:A0O8EXjso
紬「お父様……!」

涙が、とまらない。初めてだった。完璧だと思っていた父の苦悩を知ったのは。
同じだったんだ。紬と同じ、悩み、苦しみ、人の心を傷つけ……。
父も、弱い人間だった。その弱さを、ずっと隠し続けただけだったんだ。
琴吹家当主、琴吹産業社長、琴吹グループ総帥、慈善活動家、人格者。数々の仮面で覆い続けた弱さ。

紬「それは私のタックマンと同じ。夢はいつしか終わり、ヒーローではなくなる」

父は街を、この日本を救うために戦い続けたが、ついに黄金の手によって倒れ、この街は闇に堕ちた。
彼はヒーローにはなれなかった。志半ばで倒れた、どこにでもいるような弱い人間だった。

紬「お父様……私も、同じです。お父様の思うような人間ではありません……」

大切な仲間を裏切ってまで選んだタックマンの道。
だが、力が無い。守ろうとしたものを守る力が。

紬「ヒーローにはなれない。輝きもなにもかも、全て私には遠すぎる……」

斉藤「お嬢様、紅茶をお持ちいたしました」

紬「斉藤……お父様は……弱い人間だったのね。私と、同じ」

斉藤「いいえ、それは違うと、はっきりと申し上げることが出来ます」

紬「どうして?」

斉藤「人間というものは誰しもそうやって傷つけあうものです。心の弱さを、力の弱さを隠すために寄り添って生きていく、それが人間です。ですが、心の中身が人の全てを価値付けるのではりません。人は行動し、何かを成すことができる。旦那様は……あなたのお父上は、この街に希望をもたらしました」

紬「希望を……?」

斉藤「ええ。これをご覧ください」

斉藤は袖をまくりあげ、腕を見せる。そこには、見慣れない刻印があった。

紬「それは?」

斉藤「これは変異種収容所の刻印でございます」

紬「変異種収容所?」

斉藤「政府が極秘で作り上げた、変異種を捕らえ、監禁する施設でございます」

紬「斉藤、あなたは……」

斉藤「ええ、変異種です。いえ――だったというべきでしょうか。旦那様が私の能力を消すことで私を救い出してくださいました」

紬「能力を消す……この日記に書いてあった、波動を吸収する機械のことね」

斉藤「旦那様は人道家でございました。故に人間を強制収用することなど許すことができず、収容所の廃止を求めた。だが政府の出した答えはノー。変異種の持つ力は人に危害をもたらす可能性があると」

紬「そんな……」

力をどうつかうのかは人それぞれの責任だ。銃自体が人を殺すのではない。人を殺すのは人間だ。
力そのものが罪ではない。

斉藤「旦那様のご友人が変異種だったということは、もう知っていますね? 旦那様はご友人を守るために、そして収容所の人間を助け出すために、変異種をただの人間に戻す機械を作り上げた。能力を無効化された我々は解放され、私はご恩を返すために旦那様に仕えることに」

紬「……」

斉藤「しかし、旦那様のご友人はそれを変異種への差別だととり、旦那様を拒絶しました。旦那様はそのことで自分を責め続けました。ですがお嬢様、これだけは知っておいて欲しいのです。私は、旦那様に救われました。彼はこの世界を救えるヒーローにはなれなかったかもしれない。しかし、私の世界には光が差しました。私だけではありません、街にいる何人もの人々が、そうやって旦那様に希望を与えられたのです」

紬「斉藤……」

斉藤「世界を救う英雄になるのは確かにこの時代においては難しいことです。それどころか、人一人を救うことすらこの時代ではなかなかできないことでございます。しかし旦那様は少なくとも、私の心は救ったのです。希望の光を残したのです」

紬「そう。そうなのね。そうだったんだ……」

紬はしばらくうつむき考えていた。が、顔を上げ、微笑んだ。
まるで昔にもどったかのような、光り輝く笑顔で。

紬「ありがとう斉藤。何か、わかった気がする」

メイド「お嬢様!!」

突然、メイドが書斎に駆け込んでくる。

紬「どうしたの突然、なにがあったの!?」

メイド「琴吹ビルが……!!」


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